コラム

【精神科医監修】お酒で夜中に目が覚める「中途覚醒」の原因と、今日からできる9つの対策

【精神科医監修】お酒で夜中に目が覚める「中途覚醒」の原因と、今日からできる9つの対策
尾内隆志 医師の顔写真

この記事の監修者

尾内 隆志(おない たかし) Takashi Onai, M.D.
  • 資格:公益社団法人 日本精神神経学会 精神科専門医
  • 所属・役職:医療法人社団 一秀会 葛飾橋病院 理事長(院長
  • 専門分野:臨床精神科医学一般、EDに伴う心理的側面
  • 医籍登録:医師免許取得:平成12年5月(医籍登録番号:409881)
学歴・職歴(要点を表示)

学歴

  • 郁文館高等学校(平成3年4月〜平成6年3月)
  • 聖マリアンナ医科大学 医学部医学科(平成6年4月〜平成12年3月)

職歴

  • 東京大学医学部附属病院 精神神経科(平成12年4月〜平成13年5月)
  • 針生ヶ丘病院 精神科(平成13年6月〜平成15年5月)
  • 初石病院 精神科(平成15年6月〜平成17年5月)
  • 手賀沼病院 精神科(平成17年6月〜平成18年12月)
  • 葛飾橋病院 理事長(平成19年1月〜現在)

理事長/院長よりご挨拶:
昭和32年の開院以来、地域の皆様に支えられ半世紀をこえる歴史を重ねてまいりました。社会や生活スタイルの変化に伴い精神医療も大きく変化しています。私たちは優しく開かれた医療をめざし、地域に根ざした活動を推進し、患者様・ご家族に安心いただけるホスピタルづくりに尽力してまいります。

監修範囲

本記事のうち、精神科医の観点が関与する記述(EDに関連する心理的側面・受診の不安軽減・受診行動に関する助言等)について、事実関係と表現の妥当性を確認しました。医学的一般情報であり、特定の診断・治療の保証を行うものではありません。

  • 利益相反:申告すべき利益相反はありません。
  • 最終更新:

毎晩のお酒で夜中に目が覚めてしまうのは、アルコールが睡眠の質を直接低下させているサインです。

しかし、いきなり断酒しなくても、飲み方を少し工夫するだけで睡眠は改善できます。

この記事では、精神科専門医の尾内隆志先生監修のもと、科学的根拠に基づいた原因の解説と、あなたの晩酌習慣を続けながら睡眠の質を取り戻すための具体的な対策を徹底解説します。

日中のパフォーマンス低下や、すっきりしない目覚めに悩んでいるのなら、ぜひ最後までお読みください。

この記事でわかること

  1. なぜお酒を飲むと、決まって夜中に目が覚めてしまうのか、その科学的なメカニズム
  2. 飲酒習慣を続けながら、今日から実践できる睡眠の質を上げるための9つの具体的な対策
  3. 放置すると危険なサインと、専門医に相談すべき症状の明確な見極め方
目次
  1. 「寝酒なのに眠れない…」その悩み、あなただけではありません
  2. なぜアルコールで夜中に目が覚めるのか?体に起きている3つの変化
  3. 【実践編】医師が教える!晩酌と睡眠を両立させる9つの対策
  4. それでも改善しない…アルコール以外の原因もセルフチェック
  5. これは危険なサイン。専門医への相談を検討すべき3つのケース
  6. FAQ:アルコールと睡眠のよくある質問
  7. まとめ:今日の晩酌から、睡眠の質を取り戻しましょう

「寝酒なのに眠れない…」その悩み、あなただけではありません

「一日頑張ったご褒美に、寝る前に一杯」「お酒を飲まないと、かえって目が冴えてしまう」――。

仕事のストレスを和らげるため、あるいは寝つきを良くするために、晩酌や寝酒を習慣にしている方は少なくないでしょう。

しかし、その習慣が逆に、夜中に何度も目が覚めるという不快な症状を引き起こしているとしたら、本末転倒です。

このセクションでは、まずその悩みが決して特別なものではないという事実と、アルコールと睡眠にまつわる多くの人が陥りがちな「誤解」について解説します。

尾内医師 (精神科専門医) のコメント

臨床の現場でも、『仕事のストレスから寝酒に頼り、かえって不眠が悪化するというご相談』は、40代、50代の働き盛りの方に非常に多いです。

責任ある立場でプレッシャーも大きい世代だからこそ、手軽なアルコールに頼ってしまう気持ちはよく分かります。

ですが、その結果として生じる睡眠の質の低下が、日中の判断力や集中力をさらに奪ってしまう。

まずはその悪循環にご自身で気づくことが、改善への重要な第一歩ですよ

日本人の5人に1人が抱える「中途覚醒」という睡眠問題

夜中に目が覚めて、その後なかなか寝付けない。

この症状は中途覚醒(ちゅうとかくせい)と呼ばれ、不眠症の中でも最も訴えの多いタイプの一つです。

厚生労働省の最新の調査(令和4年)によると、睡眠で休養が「まったく とれていない」または「あまりとれていない」と感じる人の割合は20.6%にのぼります。

実に、日本人の約5人に1人が、睡眠に何らかの課題を抱えているのです。

そして、この「睡眠休養感の不足」を引き起こす主な原因の一つとして、夜中に目が覚める中途覚醒が挙げられます。

あなただけが特別に弱いわけでも、意志が足りないわけでもありません。

これは多くの現代人が直面している、極めて一般的な健康問題なのです。

「寝つきが良い=ぐっすり眠れている」という大きな誤解

「お酒を飲むと、布団に入ってすぐに眠れるから、自分には合っている」――。

これは、アルコールによる不眠に悩む方が抱く、最も典型的な誤解の一つです。

確かに、アルコールには脳の働きを抑制する作用があるため、摂取すると一時的にリラックスし、眠気が訪れやすくなります。

この「入眠作用」だけを捉えて、アルコールは睡眠に良いものだと錯覚してしまうのです。

しかし、問題は眠りについた「後」にあります。アルコールが体内から抜けていく過程で、睡眠の構造そのものが大きく乱されてしまいます。

前半の数時間は深く眠れたように感じても、睡眠の後半では浅い眠りが続き、結果として何度も目が覚めてしまう。

これが「アルコール誘発性睡眠障害」の典型的なパターンです。寝つきの良さと、睡眠の質は全くの別問題であると、まずは認識を改める必要があります。

アルコールは「睡眠薬」代わりにはならない、その理由とは?

「病院で睡眠導入剤をもらうのは抵抗があるから、お酒で代用している」という声も聞かれますが、これは非常に危険な考え方です。

アルコールは、正規の睡眠薬とは作用機序が全く異なります。睡眠薬が脳の特定の受容体に作用し、自然な眠りを導くのを助けるのに対し、アルコールは脳全体の機能を強制的にシャットダウンさせるようなものです。

さらに、アルコールには「耐性」という厄介な性質があります。

同じ量では次第に効果が薄れていくため、寝つくために必要なお酒の量がどんどん増えていきます。

これが、気づかぬうちに依存症へと進展するリスクを飛躍的に高めるのです。

厚生労働省も、不眠の解決策としてアルコールを用いることの危険性を明確に警告しています。

不眠の解消を目的に寝酒をすると、眠りが浅くなる・夜中に目が覚めるといった睡眠の質を悪化させるだけでなく、アルコール依存症のリスクを高めることにつながります。

健康日本21(第二次) | e-ヘルスネット(厚生労働省)

アルコールはあくまで嗜好品であり、睡眠の問題を解決する「薬」にはなり得ません。

むしろ、問題をより深刻化させる原因そのものであることを理解することが重要です。

なぜアルコールで夜中に目が覚めるのか?体に起きている3つの変化

では、具体的に私たちの体の中では何が起きているのでしょうか。

アルコールを摂取した後に夜中に目が覚めてしまう現象は、主に3つの生理的なメカニズムによって引き起こされます。

このセクションでは、その科学的根拠を一つずつ、できるだけ分かりやすく解説します。

ご自身の体に起きている変化を正しく理解することが、効果的な対策への第一歩となります。

原因①:分解産物「アセトアルデヒド」の強い覚醒作用

アルコール(エタノール)が体内で分解される過程で生成されるアセトアルデヒドという物質。

これこそが、中途覚醒を引き起こす最大の元凶です。

肝臓に取り込まれたアルコールは、まずアセトアルデヒドに分解され、次に酢酸へと分解されて最終的に水と二酸化炭素になります。

この中間生成物であるアセトアルデヒドは、二日酔いの原因となる毒性の強い物質として知られていますが、実はもう一つ、強力な覚醒作用を持っています。

アセトアルデヒドは、自律神経のうち体を興奮・緊張させ交感神経を刺激します。飲酒後、数時間経ってアルコールそのものの鎮静作用が薄れてくると、今度は血中に残ったアセトアルデヒドの覚醒作用が優位になります。

その結果、心拍数や体温が上昇し、脳が覚醒状態に傾いてしまうのです。

これが、決まって夜中の2時や3時に目が覚めてしまう現象の正体です。

原因②:睡眠の後半で「レム睡眠」が増え、眠りが浅くなる

私たちの睡眠は、深い眠りのノンレム睡眠と、浅い眠りで夢を見るレム睡眠が、約90分の周期で繰り返されています。

健康な睡眠では、眠り始めに深いノンレム睡眠が多く出現し、脳と体をしっかりと休息させます。

しかし、アルコールを摂取すると、この睡眠サイクルが大きく乱れます。

飲酒直後はアルコールの鎮静作用で深いノンレム睡眠が増えるものの、アルコールが分解され始めるとその反動(リバウンド)が起こります。

睡眠の後半では、レム睡眠が不自然に増加し、断片化してしまうのです。

レム睡眠中は、脳が活発に活動しており、体は休息状態でも脳は覚醒に近い状態にあります。

そのため、レム睡眠が頻繁に出現する睡眠後半では、物音や少しの体の不快感など、ささいな刺激で目が覚めやすくなってしまうのです。

これが、アルコールを飲んだ夜は夢をよく見たり、何度も目が覚めたりする理由です。

原因③:トイレが近くなる「利尿作用」による覚醒

もう一つの直接的な覚醒原因が、アルコールの持つ強い利尿作用(りにょうさよう)です。

私たちの体には、尿の量をコントロールする「抗利尿ホルモン(バソプレシン)」というホルモンがあります。

脳の下垂体から分泌され、腎臓での水分再吸収を促すことで、体内の水分量を適切に保っています。

しかし、アルコールはこの抗利尿ホルモンの分泌を抑制してしまいます。

その結果、腎臓での水分再吸収が減り、摂取した水分以上に尿として排出されてしまうのです。

ビールなどを飲むとトイレが近くなるのは、この作用によるものです。

睡眠中であってもこの利尿作用は続くため、尿意によって夜中に目が覚めてしまうのです。

尾内医師 (精神科専門医) のコメント

『強いお酒を飲めば、量が少なく済むからぐっすり眠れるのでは?』と考える方がいますが、これは大きな誤解です。

睡眠への悪影響は、摂取した純アルコール量に比例します。

アルコール度数が高いお酒を飲めば、それだけ血中のアセトアルデヒド濃度も高くなり、結果として中途覚醒のリスクはさらに高まります。

お酒の種類よりも、総量をコントロールすることが何より重要です

【実践編】医師が教える!晩酌と睡眠を両立させる9つの対策

原因を理解したところで、いよいよ具体的な対策編です。

ここでは「いきなり断酒するのは難しい」と感じているあなたのために、日々の晩酌習慣を続けながら、睡眠の質を改善するための9つの実践的な方法を、「飲み方」「おつまみ」「飲んだ後」「生活習慣」の4つのカテゴリーに分けて詳しく解説します。

一つでも二つでも、今日から取り入れられるものからぜひ試してみてください。

《飲み方の工夫編》

まずは、お酒そのものの飲み方を少し見直してみましょう。

ほんの少しの工夫で、アルコールの体への影響は大きく変わります。

対策①:就寝の3時間前までに飲み終える

最も重要かつ効果的な対策です。肝臓がアルコールを分解するには時間がかかります(体重約60kgの人の場合、ビール500mlの分解に約4時間)。

ただし、これはあくまで平均的な目安です。

アルコールの分解速度は性別、年齢、遺伝的体質によって大きく異なり、特に女性や高齢者ではより長い時間がかかる場合があるため注意が必要です。

就寝時に体内にアルコールやアセトアルデヒドが残っていると、睡眠の質は確実に低下します。

理想は、ベッドに入る3〜4時間前には飲酒を終えることです。

これにより、睡眠の深い時間帯にアセトアルデヒドの血中濃度がピークを迎えるのを避けることができます。

対策②:飲んだアルコールと同量の「和らぎ水(チェイサー)」を飲む

お酒と一緒に、必ず水を飲む習慣をつけましょう。

これは「和らぎ水(やわらぎみず)」と呼ばれ、多くのメリットがあります。

まず、アルコールの利尿作用による脱水を防ぎ、夜中の喉の渇きや尿意による覚醒を軽減します。

また、胃の中のアルコール濃度を薄め、吸収を穏やかにする効果もあります。

さらに、水を飲むことで物理的に飲むペースが落ち、総量を減らすことにも繋がります。

日本酒一合を飲んだら、水も一杯飲む、というように意識してみてください。

対策③:ゆっくり味わって飲み、血中濃度の上昇を緩やかにする

お酒を急ピッチで飲むと、血中アルコール濃度が急上昇し、肝臓の分解が追いつかなくなります。

その結果、アセトアルデヒドが長時間体内に留まり、睡眠への悪影響も大きくなります。

会話を楽しみながら、あるいは食事と一緒に、一杯のお酒を時間をかけてゆっくりと味わうことを心がけましょう。

これにより、急激な酔いを防ぎ、体への負担を軽減することができます。

《おつまみ・食事編》

お酒と一緒に何を食べるかも、睡眠の質に大きく影響します。

体をリラックスさせ、睡眠をサポートする栄養素を賢く取り入れましょう。

対策④:睡眠の質を助ける「トリプトファン」「GABA」を含むおつまみを選ぶ

睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の材料となるのが「セロトニン」、そしてそのセロトニンの材料となるのが必須アミノ酸の「トリプトファン」です。

チーズや牛乳などの乳製品、豆腐や納豆などの大豆製品、ナッツ類に多く含まれています。

また、トマトなどに含まれる「GABA」には神経を落ち着かせる働きがあるという報告もありますが、食事から摂取したGABAが睡眠の質を直接改善するかどうかについては、まだ科学的な研究が進行中の段階です。

おつまみには、まずはトリプトファンが豊富な冷奴やチーズ、枝豆などを選ぶと良いでしょう。

対策⑤:〆のラーメンや炭水化物は血糖値の乱高下を招くため避ける

飲んだ後の「〆のラーメン」は格別ですが、睡眠にとっては最悪の習慣の一つです。

夜遅くに炭水化物を大量に摂取すると血糖値が急上昇し、それを下げるためにインスリンが大量に分泌されます。

その後、今度は血糖値が急降下する「低血糖」状態に陥ることがあり、これが夜中の覚醒の原因となります。

〆のラーメンやお茶漬けは我慢し、どうしても小腹が空いた場合は、温かい味噌汁やスープ程度に留めておきましょう。

《飲んだ後の習慣編》

飲酒後から就寝までの過ごし方も、睡眠の質を左右する重要な時間帯です。

脳と体をスムーズに睡眠モードへ移行させるための習慣を身につけましょう。

対策⑥:ぬるめのお風呂(38-40℃)に15分浸かり、リラックスする

就寝の1〜2時間前に、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることは、質の良い睡眠への最高の準備です。

入浴によって一時的に上がった深部体温が、その後急激に下がるタイミングで、人は自然な眠気を感じます。

熱すぎるお湯(42℃以上)は交感神経を刺激してしまい逆効果なので注意が必要です。

リラックス効果のある入浴剤などを活用するのも良いでしょう。

対策⑦:寝る前のスマートフォンは、脳を覚醒させるためベッドに持ち込まない

スマートフォンやPCの画面が発するブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を強力に抑制し、脳を覚醒させてしまいます。

また、SNSやニュースをチェックすることは、知らず知らずのうちに脳にストレスを与え、神経を高ぶらせます。

就寝1時間前にはデジタルデバイスの電源をオフにする「デジタル・デトックス」を習慣にすることをおすすめします。

《生活習慣全体の見直し編》

最後に、より根本的な体質改善と睡眠の質向上につながる、日中の生活習慣についてです。

対策⑧:日中に軽い運動(ウォーキングなど)を取り入れ、睡眠圧を高める

日中に適度な運動をすると、夜の自然な眠りに不可欠な「睡眠圧」が高まります。

睡眠圧とは「眠りたい」という欲求のことで、日中の活動量が多いほど高まります。

激しい運動はかえって交感神経を高ぶらせてしまうため、夕方ごろに30分程度のウォーキングや軽いジョギングなどを行うのが最も効果的です。

運動習慣は、ストレス解消にも繋がり、一石二鳥です。

対策⑨:ストレスの原因から距離を置き、自分なりの解消法を見つける

そもそも、なぜあなたはお酒に頼ってしまうのでしょうか。

多くの場合、その根底には仕事や人間関係のストレスがあります。

アルコールは一時的な逃避にはなりますが、根本的な解決にはなりません。

ストレスの原因そのものと向き合い、物理的に距離を置いたり、考え方を変えたりすることも重要です。

また、お酒以外のリラックス方法(趣味、音楽鑑賞、友人との会話など)を複数持っておくことで、アルコールへの依存度を下げることができます。

尾内医師 (精神科専門医) のコメント

これら9つの対策を見て、『全部やるのは大変だ』と感じたかもしれませんね。

でも、ご安心ください。9つすべてを完璧にやろうと気負う必要はまったくありません。

特に仕事で疲れている日は難しいでしょう。

まずはご自身が『これならできそう』と一番始めやすいと感じる対策を1つか2つ、試してみてください。

例えば『寝る前に水を一杯飲む』だけでも、きっと何かしらの変化を感じられるはずです。

小さな成功体験を積み重ねることが、改善への一番の近道です

それでも改善しない…アルコール以外の原因もセルフチェック

これまで解説してきた対策を試しても、なかなか中途覚醒が改善しない。

その場合、原因はアルコールだけでなく、他の要因が隠れている可能性も考えられます。

このセクションでは、アルコール以外に中途覚醒を引き起こす代表的な原因を5つ挙げます。

ご自身の状態と照らし合わせながら、セルフチェックをしてみてください。

精神的なストレスや不安感

過度なストレスや悩み事、不安感は、交感神経を優位にし、脳を覚醒させやすくします。

特に、仕事上のプレッシャーや将来への不安などを抱えていると、眠りが浅くなり、夜中にふと目が覚めたときに、そのことが頭から離れなくなり再入眠が困難になることがあります。

加齢による睡眠パターンの自然な変化

年齢を重ねると、体内時計のリズムが前倒しになり、深いノンレム睡眠が減少するなど、睡眠パターンが自然に変化します。

若い頃に比べて早寝早起きになったり、眠りが浅くなったりするのは、ある程度は生理的な現象です。

しかし、それが日中の活動に支障をきたすレベルであれば、対策が必要です。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性

睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気です。

呼吸が止まるたびに、脳は覚醒して呼吸を再開させようとするため、本人の自覚がないまま夜中に何度も目を覚ましています。

大きないびきや、日中の強い眠気起床時の頭痛などがある場合は、この病気を疑う必要があります。

肥満体型の中年男性に多いとされていますが、痩せている人や女性でも発症します。

うつ病などの精神疾患の初期症状

中途覚醒は、うつ病の代表的な初期症状の一つです。

特に、早朝(いつもより2時間以上早く)に目が覚めてしまい、その後眠れない「早朝覚醒」を伴う場合は注意が必要です。

気分の落ち込み、何事にも興味が持てない、食欲不振などの症状が2週間以上続くようであれば、専門医への相談を検討すべきです。

カフェインの過剰摂取や不規則な生活リズム

コーヒーや緑茶、栄養ドリンクなどに含まれるカフェインには強い覚醒作用があり、その効果は人によっては8時間以上続くこともあります。

午後の遅い時間にカフェインを摂取すると、夜の睡眠に影響を及ぼす可能性があります。

また、シフトワークや休日の寝だめなどによる不規則な生活リズムは、体内時計を乱し、睡眠の質を低下させる大きな原因となります。

中途覚醒の隠れた原因セルフチェックリスト

チェック項目はい / いいえ
1. 家族やパートナーから、大きないびきや睡眠中の無呼吸を指摘されたことがある
2. 朝起きたときに、頭痛や喉の渇き、熟睡感のなさを感じることが多い
3. 日中、特に会議中や運転中などに、耐えがたいほどの強い眠気に襲われることがある
4. この2週間、ほとんど毎日気分が落ち込んだり、憂鬱な気分になったりしている
5. 以前は楽しめていた趣味や活動に、全く興味がわかなくなった
6. 夕方以降にコーヒーや緑茶、エナジードリンクを飲む習慣がある
7. 平日と休日の起床時間に2時間以上のずれがある
8. 夜中に足がむずむずしたり、ほてったりして眠れないことがある(むずむず脚症候群)

判定の目安:

  • 1〜3に複数当てはまる場合:睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。呼吸器内科や睡眠専門クリニックにご相談ください。
  • 4, 5に当てはまる場合:うつ病の可能性があります。精神科や心療内科の受診を検討してください。
  • 6〜8に当てはまる場合:生活習慣や他の睡眠障害が原因の可能性があります。

これは危険なサイン。専門医への相談を検討すべき3つのケース

セルフケアを試みても改善が見られない場合や、特定のサインが見られる場合は、専門的な治療が必要な段階かもしれません。

問題を放置すると、アルコール依存症や深刻な精神疾患に繋がる恐れもあります。

このセクションでは、ご自身の健康を守るために、専門医への相談を真剣に検討すべき3つの具体的なケースについて解説します。

ケース①:お酒の量が少しずつ増え、自分ではコントロールできない

「最初はビール1本で眠れていたのに、最近は2本、3本と飲まないと眠れない」
「今日は飲むのをやめようと決めていたのに、結局飲んでしまった」

このように、アルコールの量が増加している(耐性の形成)、あるいは飲酒量を自分でコントロールできないと感じる場合は、アルコール依存症の初期段階にある可能性があります。

これは意志の強さの問題ではありません。脳がアルコールに依存し始めているサインであり、専門的な介入が必要な状態です。

ケース②:週に3日以上、中途覚醒に悩まされている

一時的なストレスなどで眠れない夜は誰にでもあります。

しかし、寝つきが悪い、夜中に目が覚める、朝早く目が覚めてしまうといった不眠症状が週に3日以上あり、それが1ヶ月以上続いている場合、それは「不眠症」という病気と診断される可能性があります。

慢性的な不眠は、生活の質を著しく低下させるだけでなく、高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めることも知られています。

ケース③:日中の眠気や気分の落ち込みが仕事や生活に支障をきたしている

夜眠れていない影響で、日中の仕事でミスが増えたり、会議中に居眠りをしてしまったり、あるいは理由もなくイライラしたり、気分が落ち込んだりする状態が続いているのなら、それは体が発している危険信号です。

睡眠不足は、精神的な健康にも深刻な影響を及ぼします。

日常生活に支障が出ていると感じたら、それは専門家の助けを求めるべき明確なタイミングです。

尾内医師 (精神科専門医) のコメント

特に『飲まないと眠れない』『量をコントロールできない』と感じたら、それはアルコール依存症の入り口かもしれません。

これは決して『意志が弱い』といった精神論の問題ではなく、脳の報酬系という回路がアルコールに乗っ取られてしまう、専門的な治療が必要な『病気』です。

決して一人で抱え込まず、恥ずかしがらずに、お近くの精神科や心療内科にご相談ください。

早期に介入するほど、回復もスムーズになります

何科を受診すればいい?相談できる窓口一覧

もし受診を決意した場合、どの診療科に行けばよいか迷うかもしれません。症状によって、適切な相談先は異なります。

  • 精神科・心療内科: アルコール依存症の疑い、ストレスやうつ症状が不眠の背景にある場合に最も適しています。
  • 睡眠専門外来・睡眠クリニック: 睡眠時無呼吸症候群など、睡眠に関する問題を専門的に診断・治療します。
  • 呼吸器内科: いびきや無呼吸が主訴である場合の最初の相談先として適しています。
  • 保健所や精神保健福祉センター: 全国の都道府県や市町村に設置されており、無料でアルコール問題に関する相談が可能です。

FAQ:アルコールと睡眠のよくある質問

ここでは、アルコールと睡眠に関して多くの方が抱く、素朴な疑問についてQ&A形式でお答えします。

Q. ビールやワインなど、お酒の種類によって睡眠への影響は変わりますか?

A. 基本的に、睡眠への悪影響はお酒の種類ではなく、摂取した「純アルコール量」によって決まります。

ビール、日本酒、ワイン、ウイスキーなど、種類が異なっても、体内で分解されれば同じエタノールです。

したがって、アセトアルデヒドの生成やレム睡眠の阻害といった影響も同様に起こります。

例えば、ビールロング缶1本(500ml, 5%)と、日本酒1合(180ml, 15%)、ウイスキーダブル1杯(60ml, 43%)の純アルコール量は、いずれも約20gでほぼ同じです。

種類に惑わされず、総量を意識することが重要です。

Q. ノンアルコール飲料なら、寝る前に飲んでも大丈夫ですか?

A. アルコール度数0.00%のノンアルコール飲料であれば、睡眠への直接的な悪影響はありません。

むしろ、ビール風味の炭酸がリラックス効果をもたらしたり、「休肝日だけど口寂しい」という気持ちを満たしてくれたりする点では、上手に活用できる選択肢です。

ただし、製品によっては糖分が多く含まれているものもありますので、成分表示を確認することをおすすめします。

糖分の摂りすぎは、血糖値の乱高下を招き、睡眠を妨げる可能性があります。

Q. 睡眠導入剤とお酒を一緒に飲むのは、なぜ危険なのですか?

A. 絶対にやめてください。命に関わる非常に危険な行為です。

ほとんどの睡眠導入剤とアルコールは、どちらも脳の機能を抑制する「中枢神経抑制作用」を持っています。

これらを同時に摂取すると、作用が互いに強め合い、予期せぬほど強力な抑制効果が現れることがあります。

その結果、記憶障害(健忘)や、呼吸が浅く、あるいは止まってしまう「呼吸抑制」を引き起こす危険性があります。

最悪の場合、死に至ることもあります。医師から睡眠導入剤を処方されている場合は、必ず禁酒を守ってください。

まとめ:今日の晩酌から、睡眠の質を取り戻しましょう

今回は、お酒を飲むと夜中に目が覚めてしまう「中途覚醒」の原因から、今日から実践できる具体的な9つの対策、そして専門医に相談すべき危険なサインまでを網羅的に解説しました。

アルコールは、寝つきを良くするように見せかけて、実は睡眠の質を著しく低下させる諸刃の剣です。

そのメカニズムの主役が、分解過程で生まれるアセトアルデヒドの覚醒作用と、睡眠サイクルの後半に起こるレム睡眠の増加です。

しかし、大切な晩酌の習慣を完全に断つ必要はありません。

就寝3時間前までに飲み終える、同量の水を飲む、睡眠を助けるおつまみを選ぶといった少しの工夫で、お酒と上手に付き合いながら、朝までぐっすり眠る生活を取り戻すことは十分に可能です。

【医師推奨】快眠のための飲酒習慣・最終チェックリスト

チェック項目実践する
【飲み方】 就寝の3時間前までに飲み終える
【飲み方】 飲んだお酒と同量の「和らぎ水」を飲む
【飲み方】 急がず、ゆっくりとしたペースで味わう
【おつまみ】 豆腐やチーズ、ナッツ類を積極的に選ぶ
【おつまみ】 〆のラーメンやご飯ものは我慢する
【飲んだ後】 就寝1-2時間前にぬるめのお風呂に入る
【飲んだ後】 就寝1時間前にはスマホやPCの電源をオフにする
【生活習慣】 日中に30分程度の軽い運動を心がける
【生活習慣】 お酒以外のストレス解消法を見つける

もし、セルフケアを続けても改善しない場合や、お酒の量をコントロールできないと感じる場合は、決して一人で悩まず、専門家へ相談する勇気を持ってください。

尾内医師 (精神科専門医) からのメッセージ

毎日の晩酌は、あなたにとって一日を締めくくる大切なリラックスの時間だと思います。

その時間を奪うのではなく、より質の高いものに変えていくことが大切です。

お酒と上手に付き合い、睡眠の質を高めることで、日中のパフォーマンスが向上し、心にも余裕が生まれます。

この記事が、あなたの健やかで活力に満ちた毎日のための、確かな第一歩となることを心から願っています

参考文献

e-ヘルスネット(厚生労働省)「アルコール依存症」

厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」

e-ヘルスネット(厚生労働省)「純アルコール量とは」

厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」

厚生労働省「依存症対策について(相談窓口など)」

日本睡眠学会「睡眠と社会」

厚生労働省「国民健康・栄養調査」

厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」

e-ヘルスネット(厚生労働省)「アルコールの作用」

この記事を書いた人

葛飾橋病院

葛飾橋病院では精神科、神経科、内科、放射線科、歯科と様々な診療、治療を行っています。職員一同心をひとつに合わせて、患者様、ご家族の皆さまに心から安心していただけるホスピタルづくりを進めており、地域に密着した精神科医療の活性化に尽力していきます。当ブログでは精神科を中心とした記事を作成し患者様の心を少しでも和らげられるような発信をしていきます。