
この記事の監修者
学歴・職歴(要点を表示)
学歴
- 郁文館高等学校(平成3年4月〜平成6年3月)
- 聖マリアンナ医科大学 医学部医学科(平成6年4月〜平成12年3月)
職歴
- 東京大学医学部附属病院 精神神経科(平成12年4月〜平成13年5月)
- 針生ヶ丘病院 精神科(平成13年6月〜平成15年5月)
- 初石病院 精神科(平成15年6月〜平成17年5月)
- 手賀沼病院 精神科(平成17年6月〜平成18年12月)
- 葛飾橋病院 理事長(平成19年1月〜現在)
監修範囲
本記事のうち、精神科医の観点が関与する記述(EDに関連する心理的側面・受診の不安軽減・受診行動に関する助言等)について、事実関係と表現の妥当性を確認しました。医学的一般情報であり、特定の診断・治療の保証を行うものではありません。
- 利益相反:申告すべき利益相反はありません。
- 最終更新:
夜中にふと目が覚めて、時計を見ては「また眠れないかもしれない…」と焦りを感じる。
そんな経験はありませんか?日中の大事な会議で頭が働かなかったり、なんとなく体がだるかったり。
その原因は、夜中のその一瞬の覚醒にあるのかもしれません。
結論として、夜中に目が覚める「中途覚醒」は多くの人が経験する悩みですが、「気にしない」で放置すると日中のパフォーマンス低下や心身の不調に繋がる可能性があります。
大切なのは、目が覚めた時に正しく対処し、根本的な原因に合わせた生活習慣を実践することです。
この記事は、最新の研究報告や論文を基に構成し、精神科医の尾内隆志先生に監修いただいています。
科学的根拠に基づいた信頼できる情報で、あなたの深い悩みに寄り添い、具体的な解決策を提示します。
この記事でわかること 3点
2.目が覚めてしまった直後に「やってはいけないこと」と「やるべきこと」
3.専門家が推奨する、今日から始められる具体的な熟睡のための改善策
そもそも「中途覚醒」とは?放置しても大丈夫?
このセクションでは、まず「中途覚醒」そのものについて正しく理解し、「気にしなくても良いのでは?」という疑問に答えます。
結論から言うと、たまに目が覚めること自体は異常ではありませんが、それが習慣化し、日中の活動に影響が出ているなら、それは放置すべきではないサインです。
夜中に目が覚めるのは「異常なこと」ではない
意外に思われるかもしれませんが、実は私たちは誰でも、一晩の睡眠中に短い覚醒を数回経験しています。
これは、深い眠りである「ノンレム睡眠」と、浅い眠りである「レム睡眠」が約90分のサイクルで繰り返される、正常な睡眠の仕組みの一部です。
健康な人であれば、この短い覚醒を覚えていないまま、再び自然に眠りに落ちます。
しかし、何らかの原因でこの覚醒が長引いたり、覚醒したことをはっきりと覚えていたり、その後なかなか再入眠できなくなったりする状態が、いわゆる「中途覚醒」と呼ばれる不眠症の一つのタイプです。
臨床的に問題となる「中途覚醒」は、以下の要素を満たす状態を指します。
2.その状態が週3日以上、1ヶ月以上続いている(慢性化)
3.最も重要な点:結果として、日中に倦怠感や集中力低下など、明らかな支障が出ている
この「日中の機能障害」の有無が、生理的な現象と治療を要する病態とを分ける重要なサインとなります
【専門家の視点】「気にしない」で放置する2つのリスク
「疲れているだけだろう」「そのうち治るだろう」と軽く考え、中途覚醒を放置してしまうことは、実は大きなリスクを伴います。
リスク1:日中の集中力・判断力の低下
最も分かりやすい影響は、日中のパフォーマンス低下です。
睡眠が分断されることで、脳や体が十分に休息できず、翌日に疲労感を持ち越してしまいます。
これにより、集中力の低下、記憶力の減退、判断ミスなどが起こりやすくなり、仕事や家事の効率を著しく下げてしまう可能性があります。
特に、重要な決断を求められる立場にある方ほど、この影響は深刻です。
リスク2:うつ病や生活習慣病など、他の病気のサインを見逃す可能性
継続的な中途覚醒は、単なる睡眠の問題にとどまらないことがあります。
それは、うつ病などの精神疾患の初期症状であったり、睡眠時無呼吸症候群のような身体的な病気が隠れていたりするサインの可能性があるからです。
また、睡眠不足はホルモンバランスや自律神経の乱れを引き起こし、長期的には高血圧や糖尿病といった生活習慣病のリスクを高めることも研究で指摘されています。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
臨床の現場でも、お仕事で責任ある立場の方ほど『自分の睡眠は後回し』にしがちです。しかし、中途覚醒を放置した結果、日中のパフォーマンスが落ちてしまい、『もしかして、うつ病なのでは』と心配になってご相談に来られるケースは非常に多いですね。睡眠は心身の健康のバロメーター。軽視しないことが大切です。
この記事が目指すゴール:不安の解消と具体的な行動
ここまでリスクについてお伝えしましたが、この記事は過度な不安を煽ることが目的ではありません。
むしろ、あなたが抱える漠然とした不安を、「正しい知識」に変えることで解消し、今日からできる具体的な行動へと繋げることを目指しています。
次のセクションからは、夜中に目が覚めてしまった時の具体的な対処法から、根本的な原因、そして日々の生活で実践できる改善策まで、順を追って詳しく解説していきます。
【緊急対処法】夜中に目が覚めてしまったら?
夜中に目が覚めてしまった瞬間、「どうしよう、また眠れない…」という焦りが、かえって脳を覚醒させてしまいます。
このセクションでは、そんな時に役立つ「やってはいけないこと」と「やるべきこと」を具体的に解説します。
この知識があるだけで、心の余裕が大きく変わるはずです。
絶対やってはいけない3つのNG行動
無意識にやってしまいがちな行動が、実は再入眠を遠ざけています。
まずは、絶対に避けるべき3つの行動から確認しましょう。
NG1:スマホを見る(ブルーライトと脳の覚醒)
最もやってはいけない行動です。
スマートフォンやPCの画面が発するブルーライトは、脳に「朝が来た」という強い信号を送ってしまいます。
これにより、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が抑制され、脳は一気に覚醒モードに入ってしまいます。
SNSの通知やニュースが気になっても、絶対に手を伸ばさないようにしましょう。
NG2:時計を確認する(「あと何時間」という焦りの誘発)
「まだ2時か…」「あと3時間しか眠れない…」と時間を確認する行為は、「眠らなければならない」というプレッシャーを自分に与え、強いストレスを生み出します。
このストレスが交感神経を刺激し、心拍数を上げ、体はリラックスとは程遠い状態になってしまいます。
寝室には時計を置かない、あるいはベッドから見えない位置に置く工夫も有効です。
NG3:無理に眠ろうと焦る(交感神経の活性化)
目を閉じて「眠れ、眠れ…」と念じるほど、意識は「眠れない自分」に集中してしまいます。
睡眠は、リラックスした状態で自然に訪れるものです。
無理にコントロールしようとすると、かえって脳が緊張し、覚醒レベルが上がってしまいます。
「眠れない」という事実を一旦受け入れることが、逆説的ですが再入眠への近道です。
再入眠を促す3つのOK行動
では、目が覚めてしまったらどうすれば良いのでしょうか。
焦りを手放し、心と体をリラックスさせるための3つの行動をご紹介します。
OK1:一度ベッドから出て、リラックスできることをする
15分以上眠れない状態が続いたら、思い切って一度ベッドから出ましょう。
寝室の明かりはつけず、間接照明などの薄明かりの下で、退屈だと感じるくらいの単調な本を読んだり、ヒーリング音楽を聴いたりするのがおすすめです。
大切なのは「眠る努力」から意識をそらすことです。
OK2:腹式呼吸で心身を落ち着かせる
ベッドの中にいても、リビングに移動してもできる効果的なリラックス法が腹式呼吸です。
鼻からゆっくり4秒かけて息を吸い、お腹を膨らませます。
そして、口からゆっくり8秒かけて息を吐き出し、お腹をへこませます。
これを数分間繰り返すことで、心と体をリラックスさせる副交感神経が優位になり、自然な眠気が訪れやすくなります。
OK3:眠気を感じてから再びベッドに戻る
一度ベッドから出た場合は、あくびが出るなど、はっきりとした眠気を感じてから再びベッドに戻りましょう。
「そろそろ寝ないと」という義務感で戻るのではなく、体の自然なサインに従うことがポイントです。
これにより、「ベッド=眠る場所」という脳の認識を再強化することができます。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
『また眠れないかも』と焦るお気持ちはよく分かります。でも、大丈夫。そんな時は『眠れなくても横になっているだけで体は休まる』と考えるだけで、心は楽になりますよ。100点満点の睡眠を目指す必要はありません。完璧主義を手放すことも、大切な治療の一つです。
なぜ目が覚める?中途覚醒を引き起こす5つの主な原因
効果的な対策を立てるためには、まず「なぜ自分が夜中に目が覚めてしまうのか」という原因を知ることが不可欠です。
このセクションでは、中途覚醒の主な原因として考えられる5つのカテゴリーを詳しく解説します。
ご自身の生活と照らし合わせながら、当てはまるものがないかチェックしてみてください。
原因1:ストレスと精神的な緊張
現代社会において最も多い原因の一つが、ストレスです。
仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、将来への不安などが続くと、私たちの体は常に緊張状態に置かれます。
本来、夜になると心身をリラックスさせる「副交感神経」が優位になるはずが、強いストレス下では、活動モードの「交感神経」が活発なままになってしまいます。
この自律神経の乱れが、眠りを浅くし、夜中の些細な物音や体の変化でも目が覚めやすい状態を作り出してしまうのです。
特に、責任感が強く、真面目な方ほど、無意識のうちにストレスを溜め込み、睡眠に影響が出やすい傾向があります。
原因2:生活習慣の乱れ
日々の何気ない習慣が、睡眠の質を大きく左右しています。特に注意したいのが以下の4点です。
アルコール: 寝酒は「睡眠の質の最大の敵」です。理由は3つあります。
2.睡眠サイクルの破壊: 飲酒後は深い睡眠が一時的に増えますが、その反動で睡眠の後半に浅い眠り(レム睡眠)が急増します。
このタイミングで脳が非常に起きやすい状態になるため、中途覚醒が頻発します。
3.利尿作用: 尿量を抑えるホルモンを抑制するため、尿意で目が覚めます。
「寝る3~4時間前に飲めばOK」は大きな間違いです。 睡眠中はアルコールの分解スピードが遅くなるため、寝る数時間前に飲んでも、結局、明け方の眠りが浅くなる時間帯に悪影響が直撃します。
睡眠を守るなら、夕食後のお酒はやめるのが賢明です。
カフェイン:コーヒーやお茶に含まれるカフェインの覚醒作用は、個人差はありますが一般的に摂取後30分~1時間でピークに達し、その効果は4~8時間持続すると言われています。夕方以降のカフェイン摂取は、夜の睡眠に直接影響を与える可能性があります。
寝る前の食事や水分:就寝直前に食事をとると、消化活動のために胃腸が働き続け、体が休息モードに入れません。また、水分の摂りすぎは、夜中の尿意に繋がります。
運動不足:日中の活動量が少ないと、体に適度な疲労が蓄積されず、夜になっても「眠りたい」という欲求(睡眠圧)が高まりにくくなります。これにより、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
『寝酒をするとよく眠れる』というのは大きな誤解です。アルコールは寝つきを良くするかもしれませんが、睡眠の後半部分を確実に浅くし、中途覚醒の最大の原因の一つとなります。依存のリスクもあり、睡眠の問題を解決するためにアルコールに頼るのは絶対に避けるべきです。
原因3:睡眠環境の問題
自分では気づきにくいものの、寝室の環境が睡眠を妨げているケースも少なくありません。
明るさ・音:豆電球やカーテンの隙間から漏れる光、時計の秒針の音、家族の生活音なども、眠りが浅くなっているタイミングでは覚醒の原因となり得ます。
寝具:体に合わないマットレスや枕は、寝返りを妨げたり、肩こりや腰痛の原因となったりして、睡眠の質を低下させます。
原因4:加齢とホルモンバランスの変化
年齢を重ねるにつれて、睡眠のパターンは変化します。
特に40代以降になると、若い頃に比べて深いノンレム睡眠が減少し、浅い睡眠の割合が増える傾向があります。
これには、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌量が加齢とともに減少することが関係しています。
また、40代女性の場合は、更年期に向けて女性ホルモンバランスが大きく変動する時期でもあります。
このホルモンの揺らぎが自律神経の乱れを引き起こし、のぼせや発汗(ホットフラッシュ)といった症状とともに、中途覚醒の原因となることがあります。
原因5:病気の可能性
生活習慣や環境を見直しても改善しない場合、背景に何らかの病気が隠れている可能性も考慮する必要があります。
大きないびきや、日中の強い眠気が特徴です。
・むずむず脚症候群:夕方から夜にかけて、脚に「むずむずする」「虫が這うような」といった不快な感覚が現れ、脚を動かさずにはいられなくなる病気です。
この不快感が入眠を妨げたり、中途覚醒の原因になったりします。
・うつ病などの精神疾患:不眠はうつ病の代表的な症状の一つであり、特に「早朝覚醒(予定より2時間以上早く目が覚め、その後眠れない)」と並んで中途覚醒も多く見られます。
・頻尿を引き起こす身体疾患:過活動膀胱や前立腺肥大症など、尿意が近くなる病気も中途覚醒の直接的な原因となります。
【今日から実践】睡眠の質を高める9つの熟睡習慣
原因が特定できたら、次はいよいよ具体的な対策です。
このセクションでは、専門家が推奨する、睡眠の質そのものを高めるための9つの生活習慣をご紹介します。
「朝・日中」「夜」「食事・飲み物」の3つの時間帯に分けているので、あなたのライフスタイルに合わせて、できることから一つずつ取り入れてみてください。
【朝・日中編】体内時計をリセットする習慣
良い睡眠は、前の日の夜からではなく、朝起きた瞬間から始まっています。体内時計を正しくリセットすることが、夜の自然な眠気に繋がります。
このリズムの乱れが、日曜の夜に寝付けなくなったり、月曜の朝がつらくなったりする原因です。
休日も平日プラス1時間以内には起きるように心がけましょう。
・習慣2:起きたらすぐに太陽の光を浴びる朝の光を浴びることで、脳は体内時計をリセットし、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌をストップさせます。
そして、その約15時間後に再びメラトニンが分泌されるように予約するのです。
毎朝、カーテンを開けて5分でも良いので、ベランダや窓際で光を浴びる習慣をつけましょう。
・習慣3:日中に適度な運動(15〜30分のウォーキングなど)を行う日中に体を動かすことで、体温が上がり、夜にかけて体温が下がる際の落差が大きくなります。
この体温の低下が、スムーズな入眠を促します。激しい運動である必要はありません。
少し早足のウォーキングや階段の上り下りなど、日常生活の中で意識的に体を動かすだけでも効果が期待できます。
【夜編】スムーズな入眠を促す習慣
夜は、日中の活動モードから心と体を休息モードへとスムーズに切り替えるための準備時間です。
そして、入浴後90分ほどかけて深部体温が下がっていくタイミングで、自然な眠気が訪れます。熱いお湯は交感神経を刺激してしまうため、逆効果になるので注意しましょう。
・習慣5:寝室を「眠るためだけの場所」にするベッドの上で仕事をしたり、スマホを長時間見たりしていると、脳が「ベッド=活動する場所」と認識してしまいます。
寝室は心と体を休める神聖な場所と位置づけ、眠る以外の活動はリビングなど別の場所で行うようにしましょう。
・習慣6:自分に合ったリラックス法を見つける就寝前は、意識的にリラックスする時間を設けましょう。
ヒーリング音楽を聴く、アロマを焚く、カフェインレスのハーブティーを飲む、軽いストレッチをするなど、自分が「心地よい」と感じる方法なら何でも構いません。
自分だけの入眠儀式を作ることが、質の高い睡眠への近道です。
【食事・飲み物編】睡眠を妨げないための習慣
寝る前の食事や飲み物は、睡眠の質に直接影響します。
夕食はなるべく消化の良いものを、就寝の3時間前までには済ませておくのが理想です。
・習慣8:カフェインは午後早めの時間までにする前述の通り、カフェインの覚醒作用は長く続きます。
睡眠への影響を考えるなら、コーヒーや緑茶、エナジードリンクなどを飲むのは、午後2時~3時頃までにしておきましょう。
・習慣9:寝る前のアルコール(寝酒)をやめるこれも繰り返しになりますが、非常に重要なポイントです。
アルコールは睡眠の質を確実に低下させます。
寝つきが悪いと感じるなら、寝酒に頼るのではなく、習慣6で紹介したようなリラックス法を試してみてください。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
多くの対策がありますが、専門家の立場から一つだけ挙げるなら『毎朝同じ時間に起きること』です。これが乱れると、全ての体内リズムが崩れてしまいます。9つ全てを完璧にこなそうとするとプレッシャーになるので、まずはここから始めてみてください。それだけでも、睡眠は大きく変わる可能性があります。
それでも「気になってしまう」時のための思考法
生活習慣を改善しても、夜中に目が覚めた時の「また眠れないかも…」という不安や焦りが、どうしても消えない。
そんな経験をお持ちの方も多いでしょう。
このセクションでは、キーワードである「気にしない」ための、具体的な思考のテクニックをご紹介します。
「眠れない不安」の悪循環を断ち切る
中途覚醒が続くと、「今夜もまた目が覚めるかもしれない」という予期不安が生まれます。
そして、実際に目が覚めてしまうと、「やっぱりダメだった」というネガティブな感情が強まり、さらに眠りに対する不安が大きくなる。
これが「不眠恐怖」と呼ばれる悪循環です。
この悪循環を断ち切るためにまず大切なのは、「眠り」への過剰な期待を手放すことです。
「8時間きっちり眠らなければならない」「一度も起きずに朝まで眠るのが理想」といった完璧主義が、自分自身を苦しめている可能性があります。
前述の通り、短い覚醒は誰にでも起こる自然な現象です。
目が覚めても、「まあ、そういうこともあるか」「横になっているだけでも体は休まっている」と、大らかに捉える意識を持つことが、悪循環を断ち切る第一歩となります。
認知行動療法に学ぶシンプルな2つのテクニック
不眠症の治療法として、医療機関では「不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)」という心理療法が推奨されています。
これは、睡眠に関する誤った思い込み(認知)を修正し、不適切な行動を改善していく治療法です。
ここでは、その中からご自身で簡単に実践できるテクニックを2つご紹介します。
- 思考記録法:寝る前に不安なことを紙に書き出す
頭の中で悩み事をぐるぐると考え続けてしまう方は、その内容を一度、紙に書き出してみましょう。- 何が不安か(例:明日のプレゼンがうまくいくか)
- その不安がどのくらい強いか(0~100で点数化)
- なぜそう思うのか(例:準備が不足している気がする)
- それに対する反論や別の考え方(例:昨日リハーサルはした。完璧でなくても大丈夫)
このように、頭の中にあるモヤモヤを「見える化」するだけで、客観的に自分の思考を眺めることができ、心が整理されて落ち着きを取り戻せます。
- 筋弛緩法:体に力を入れて、抜くことを繰り返しリラックスする
体の緊張が心の緊張に繋がっていることも多いため、強制的に体をリラックスさせる方法です。- ベッドや布団の上で仰向けになります。
- 両手、両腕、肩、首、顔、お腹、足など、体の各パーツに10秒間ぎゅーっと力を入れます。
- その後、一気に力を抜いて15~20秒ほど脱力し、その感覚を味わいます。
これを体の各部位で繰り返すことで、心身ともに緊張がほぐれ、リラックスした状態を作り出すことができます。
【セルフチェック】専門医への相談を検討すべきサイン
セルフケアを試してもなかなか改善しない場合や、症状が深刻な場合は、一人で抱え込まずに専門家である専門医に相談することが重要です。
このセクションでは、医療機関の受診を検討すべき具体的な目安と、どの診療科にかかれば良いのかを解説します。
【最重要】これだけは絶対にダメ!アルコールと睡眠薬の併用
睡眠に悩むあまり、お酒の力と睡眠薬を一緒に頼ろうと考えるのは、命に関わる非常に危険な行為です。
絶対にやめてください。
脳の働きを抑える「アルコール」と「睡眠薬」が同時に体内に入ると、効果が掛け算のように強まり、呼吸中枢が麻痺して呼吸が止まってしまう危険性があります。
どんなに眠れなくて辛くても、この組み合わせだけは絶対に避けてください。
受診を考えるべき4つの目安
以下のサインに一つでも当てはまる場合は、専門医への相談を強く推奨します。
専門的なアプローチが必要な段階と考えられます。
・目安2:日中の眠気がひどく、仕事や生活に支障が出ている会議中に居眠りをしてしまう、車の運転中にヒヤッとする、家事や育児に集中できないなど、日常生活に具体的な支障が出ている場合は、治療によってQOL(生活の質)の向上が見込めます。
・目安3:いびきや呼吸が止まっていることを指摘されたこれは睡眠時無呼吸症候群の典型的なサインです。
この病気は高血圧や心疾患のリスクを高めるため、放置するのは非常に危険です。
すぐに専門の医療機関を受診してください。
・目安4:気分の落ち込みや意欲の低下など、他の不調も感じている睡眠の問題だけでなく、気分が晴れない、これまで楽しめていたことが楽しめない、食欲がないといった症状がある場合は、うつ病などの精神疾患が背景にある可能性が考えられます。
何科を受診すればいい?
睡眠の悩みを相談できる診療科はいくつかあります。
・呼吸器内科・耳鼻咽喉科:いびきや無呼吸の症状がある場合に適しています。睡眠時無呼吸症候群の検査や治療(CPAP療法など)を専門的に行っています。
・睡眠外来・睡眠専門クリニック:睡眠に関する問題を総合的に診断・治療する専門の医療機関です。原因がはっきりしない場合や、複数の問題を抱えている場合に頼りになります。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
「『こんなことで病院に行っていいのだろうか』とためらう方が多いですが、睡眠の悩みは立派な治療対象です。専門家に相談することで、原因が明確になり、解決の糸口が早く見つかることがほとんどですよ。一人で悩まず、ぜひ気軽に専門家のドアを叩いてみてください。」
中途覚醒に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、中途覚醒に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式で簡潔にお答えします。
Q. 睡眠導入剤を飲むことに抵抗があります。
A. 確かに、睡眠薬に対して「依存する」「やめられなくなる」といったネガティブなイメージをお持ちの方は少なくありません。
しかし、最近の睡眠薬は改良が進み、依存性が少なく、安全性の高いものが主流になっています。
医師の指導のもと、用法・用量を守って正しく使用すれば、非常に有効な治療選択肢となります。
薬物療法だけでなく、生活習慣の指導などと並行して行うことで、最終的には薬に頼らずに眠れるようになることを目指しますので、まずは一度相談してみることが大切です。
Q. サプリメントは効果がありますか?
A. 様々な成分のサプリがありますが、例えば人気の「GABA」については、専門家の間で評価が大きく分かれています。
【注意すべき点】
・研究への疑問: GABAの効果をうたう研究の多くが、製品の販売企業から資金提供を受けているという指摘があります。そのため、結果が本当に中立的なものか、慎重に見極める必要があります。
サプリは医薬品ではなく、あくまで「食品」です。安易に頼るのではなく、まずは生活習慣の改善に取り組みましょう。
Q. ショートスリーパーの人は中途覚醒しないのですか?
A. 必要な睡眠時間は遺伝的に決まっている部分が大きく、生まれつき短い睡眠時間でも健康を維持できる「ショートスリーパー」と呼ばれる人々が少数存在することは事実です。
しかし、彼らは「短時間でも質の高い睡眠」が取れているため問題ないのであり、中途覚醒に悩むことは少ないと考えられます。
単に睡眠時間が短いだけで、日中に眠気や不調を感じる場合は、ショートスリーパーではなく、単なる睡眠不足の状態です。
大切なのは時間だけでなく、睡眠の質であることを理解することが重要です。
まとめ:正しい対処で「ぐっすり眠れる毎日」を取り戻しましょう
今回は、中途覚醒について、そのリスクから原因、そして具体的な対処法までを網羅的に解説してきました。
夜中に目が覚めること自体は異常ではありませんが、それが習慣化し、あなたの生活の質を下げているのであれば、それは体からの重要なサインです。
「気にしない」と問題を先送りするのではなく、「正しく対処する」ことに意識を切り替え、今日からできることから始めてみましょう。
最後に、この記事の要点をまとめたアクションプランをご確認ください。
中途覚醒 改善のためのアクションプラン
ステップ | やること |
---|---|
Step 1: 緊急対処 | 夜中に目が覚めたら、時計とスマホを見ず、リラックスして眠気を待つ |
Step 2: 原因分析 | 自分の生活習慣やストレス状況を振り返り、原因の仮説を立てる |
Step 3: 習慣改善 | 「朝の光」と「寝る前のリラックス」から、できることを一つずつ始める |
Step 4: 専門家への相談 | 1ヶ月以上改善しない、日中つらい場合は、迷わず専門医に相談する |
尾内医師 (精神科専門医) からのメッセージ
睡眠は、あなたの心と体を守る大切な土台です。この記事を読んで、少しでも心が軽くなったり、試してみようと思えることが見つかったりしたのであれば幸いです。一人で抱え込まず、この記事をきっかけに、ご自身の睡眠と向き合う第一歩を踏み出していただければ、これほど嬉しいことはありません。
参考文献