コラム

【精神科医監修】不眠症で病院は何科に行くべき?症状・原因別の選び方と受診の目安を専門家が徹底解説

【精神科医監修】不眠症で病院は何科に行くべき?症状・原因別の選び方と受診の目安を専門家が徹底解説
尾内隆志 医師の顔写真

この記事の監修者

尾内 隆志(おない たかし) Takashi Onai, M.D.
  • 資格:公益社団法人 日本精神神経学会 精神科専門医
  • 所属・役職:医療法人社団 一秀会 葛飾橋病院 理事長(院長
  • 専門分野:臨床精神科医学一般、EDに伴う心理的側面
  • 医籍登録:医師免許取得:平成12年5月(医籍登録番号:409881)
学歴・職歴(要点を表示)

学歴

  • 郁文館高等学校(平成3年4月〜平成6年3月)
  • 聖マリアンナ医科大学 医学部医学科(平成6年4月〜平成12年3月)

職歴

  • 東京大学医学部附属病院 精神神経科(平成12年4月〜平成13年5月)
  • 針生ヶ丘病院 精神科(平成13年6月〜平成15年5月)
  • 初石病院 精神科(平成15年6月〜平成17年5月)
  • 手賀沼病院 精神科(平成17年6月〜平成18年12月)
  • 葛飾橋病院 理事長(平成19年1月〜現在)

理事長/院長よりご挨拶:
昭和32年の開院以来、地域の皆様に支えられ半世紀をこえる歴史を重ねてまいりました。社会や生活スタイルの変化に伴い精神医療も大きく変化しています。私たちは優しく開かれた医療をめざし、地域に根ざした活動を推進し、患者様・ご家族に安心いただけるホスピタルづくりに尽力してまいります。

監修範囲

本記事のうち、精神科医の観点が関与する記述(EDに関連する心理的側面・受診の不安軽減・受診行動に関する助言等)について、事実関係と表現の妥当性を確認しました。医学的一般情報であり、特定の診断・治療の保証を行うものではありません。

  • 利益相反:申告すべき利益相反はありません。
  • 最終更新:

「最近、寝付きが悪い…」
「夜中に何度も目が覚めて、日中も頭がぼーっとする…」。

そんな不眠の悩みを抱えながらも、

「これくらいの症状で病院に行くべきなのだろうか」
「もし行くなら、何科にかかればいいの?」

と、最初の一歩を踏み出せずにいる方は少なくありません。

結論からお伝えすると、不眠症の相談は、まず精神科や心療内科が基本的な選択肢です。

ただし、いびきや体の痛みといった他の症状が不眠の主な原因である場合は、耳鼻咽喉科や整形外科などが適切なケースもあります。

この記事では、20年以上にわたり精神科医療の現場に携わってこられた尾内隆志医師の監修のもと、あなたの症状や悩みに最適な病院・診療科の選び方を、誰にでも分かるように徹底的に解説します。

この記事を読めば、以下の3点が明確になります。

この記事が、あなたのつらい不眠の悩みを解消し、質の良い睡眠を取り戻すための一助となれば幸いです。

目次
  1. まずはセルフチェック!その不眠、病院に行くべき?受診の目安
  2. 【結論】ひと目でわかる!あなたに合った診療科診断フローチャート
  3. 【徹底解説】精神科?心療内科?不眠症でかかる病院の診療科ごとの違いと特徴
  4. あなたの不眠はどのタイプ?主な原因と症状の4分類
  5. 初めての不眠症外来|予約から初診、治療の流れを完全ガイド
  6. 薬に頼らない選択肢も。認知行動療法(CBT-I)とは
  7. 不眠症の病院受診に関するよくある質問(FAQ)
  8. まとめ:一人で悩まず、専門家に相談して質の良い睡眠を取り戻しましょう

まずはセルフチェック!その不眠、病院に行くべき?受診の目安

「ただの寝不足かもしれないし…」と、医療機関への相談をためらっていませんか。

しかし、不眠は単なる寝不足ではなく、心身からの重要なサインである可能性があります。

このセクションでは、専門家への相談を検討すべき具体的な目安を3つのポイントとチェックリストでご紹介します。

1ヶ月以上、週に数回不眠が続く場合は受診を検討

一時的なストレスや環境の変化で眠れなくなることは誰にでもあります。

しかし、その状態が1ヶ月以上にわたって、週に数回以上の頻度で続くようであれば、症状の慢性化を防ぐために専門医への相談を強く推奨します。

なお、医学的な「慢性不眠障害」という診断は、一般的に症状が3ヶ月以上続いた場合に下されます。

慢性化した不眠は、自然に治ることが難しくなる傾向があります。

放置することで症状が悪化し、うつ病などの他の精神疾患につながるリスクも指摘されています。

期間と頻度が一つの大きな判断基準になると覚えておきましょう。

日中の活動に支障(強い眠気・集中力低下)が出ている

夜眠れないこと自体もつらいですが、それ以上に深刻なのが、日中の活動への影響です。

以下のような症状に心当たりはありませんか?

これらの症状は、睡眠によって心身が十分に休息できていない証拠です。

パフォーマンスの低下は、仕事上の評価だけでなく、日常生活における事故のリスクにもつながりかねません。

日中のQOL(生活の質)が明らかに低下していると感じるなら、それは専門家へ相談すべき明確なサインです。

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

臨床の現場では、『こんなことで相談していいのか分からなくて…』と、かなり症状が進行してから来院される患者さんが非常に多いです。しかし、不眠症は他の病気と同じで、早期に対応するほど回復も早くなります。日中のつらさを少しでも感じているのなら、決して我慢せず、専門家の視点からアドバイスを受けることを考えてみてください。それだけで、心の負担が大きく軽くなることもありますよ。

市販の睡眠改善薬を飲んでも改善しない

ドラッグストアなどで手に入る睡眠改善薬は、一時的な不眠に対しては有効な場合があります。

しかし、これらの多くはアレルギー薬の副作用(眠気)を応用したものであり、根本的な不眠症の治療薬ではありません。

もし、市販薬をしばらく試してみても症状が改善しない、あるいは薬を飲まないと眠れない状態が続いているのであれば、原因に対して適切なアプローチができていない可能性があります。

自己判断での薬の継続は、かえって問題を複雑にすることもあります。

専門医の診断のもと、あなたの不眠の原因に合った適切な治療法を見つけることが重要です。

【5分で完了】不眠症 受診推奨度チェックリスト

ご自身の状態を客観的に把握するために、以下のチェックリストを活用してみてください。

当てはまる項目がいくつあるか、数えてみましょう。

No.チェック項目はいいいえ
1ベッドに入ってから寝付くまでに30分以上かかることが週に3回以上ある
2夜中に2回以上目が覚め、その後なかなか寝付けない
3自分が起きたいと思う時間より2時間以上早く目が覚めてしまう
4睡眠時間は足りているはずなのに、朝起きた時にぐっすり眠れた感じがしない
5上記のいずれかの睡眠の問題が、1ヶ月以上続いている
6日中、仕事や家事に集中できない、または強い眠気を感じることがある
7最近、気分が落ち込んだり、何事にも興味が持てなくなったりしている
8不眠について悩み、眠る時間になるのが怖いと感じることがある
9市販の睡眠改善薬やアルコールに頼らないと眠れないことがある
10周囲の人から「いびきがうるさい」「寝ている時に呼吸が止まっている」と指摘されたことがある

【判定の目安】

  • 「はい」が1〜2個: まずは生活習慣の見直しを。改善が見られない場合は相談を検討しましょう。
  • 「はい」が3〜5個: 専門医への相談をおすすめします。不眠症の可能性があります。
  • 「はい」が6個以上: できるだけ早く専門医を受診してください。治療による積極的な介入が必要です。

本チェックリストは有用な自己評価の目安となりますが、より客観的な評価のために、専門家も使用する「アテネ不眠尺度(AIS)」といった検証済みの質問票をインターネットなどで検索し、試してみることも参考になります。

【結論】ひと目でわかる!あなたに合った診療科診断フローチャート

「病院に行く決心はついたけど、結局、何科がベストなの?」

その疑問に、まず結論からお答えします。

あなたの最もつらい症状から、最適な診療科の候補がわかるフローチャートを作成しました。

不眠症の診療科選びフローチャート

START: あなたの不眠の悩みで、一番当てはまるものは?

  1. 寝付けない、途中で目が覚める、気分が落ち込む、強いストレスを感じている
    • → YES: 精神科 または 心療内科
  2. 日中の眠気がひどい、家族から「いびき」や「無呼吸」を指摘された
    • → YES: 睡眠外来 または 耳鼻咽喉科
  3. 体の特定の部位の「痛み」や「かゆみ」で眠れない
    • → YES: 整形外科 (痛み)、皮膚科 (かゆみ) など、原因となる症状の専門科へ
  4. 夜中に何度もトイレに起きる、動悸や息苦しさがある
    • → YES: 内科循環器内科泌尿器科
  5. 上記に当てはまらない、またはどこに行けばいいか全く分からない
    • → YES: まずは かかりつけ医 に相談するか、精神科・心療内科

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

このフローチャートは、あくまで一般的な目安としてご活用ください。不眠の原因は複雑に絡み合っていることも少なくありません。例えば、ストレスが原因だと思っていても、背景に睡眠時無呼吸症候群が隠れていることもあります。もし判断に迷われた場合は、心の症状も体の症状も幅広く相談できる精神科・心療内科、あるいは日頃からご自身の体調をよく知ってくれているかかりつけ医に相談するのが、最も確実な第一歩と言えるでしょう。

【徹底解説】精神科?心療内科?不眠症でかかる病院の診療科ごとの違いと特徴

フローチャートで大まかな方向性は掴めたでしょうか。

このセクションでは、それぞれの診療科が不眠症に対してどのようなアプローチをとるのか、その役割と特徴をさらに詳しく解説します。

「精神科は少し抵抗がある…」と感じている方も、その役割を正しく知ることで、不安が解消されるはずです。

第一選択:精神科 – 心の不調が原因の不眠を専門的に治療

精神科は、脳や心の働きに関連する疾患を専門とする診療科です。

不眠は、うつ病不安障害統合失調症といった精神疾患の代表的な症状の一つとして現れることが非常に多いため、不眠症治療の中心的な役割を担います。

特に、「気分の落ち込みが激しい」「常に不安な気持ちが付きまとう」「何をしても楽しめない」といった精神的な不調を伴う不眠の場合は、精神科が第一選択となります。

精神科医は、丁寧な問診(カウンセリング)を通じて不眠の背景にある心の問題を探り、睡眠薬だけでなく、抗うつ薬や抗不安薬などを組み合わせた多角的な薬物療法や、精神療法を通じて根本的な原因にアプローチします。

第一選択:心療内科 – ストレスによる身体症状としての不眠をケア

心療内科は、精神的なストレスが原因で、体に症状が現れる「心身症」を専門とします。

例えば、仕事のプレッシャーで胃が痛くなったり、頭痛が続いたりするのと同じように、不眠もストレスが引き起こす代表的な身体症状の一つと捉えます。

精神科との区別は時に曖昧ですが、一般的に、気分の落ち込みといった精神症状よりも、不眠、動悸、めまい、過呼吸といった身体症状が前面に出ている場合に適しています。

アプローチとしては、ストレスの原因を探りながら、睡眠導入剤などの薬物療法や、リラクゼーション法の指導など、心と体の両面から治療を進めていきます。

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

患者さんから最もよく受ける質問の一つが、『精神科と心療内科、どちらに行けばいいですか?』というものです。両者は担当領域が重なる部分も多く、特に不眠症の治療においては、どちらの科でも専門的な治療を受けることが可能です。大切なのは、『精神科だから心の病気』『心療内科だから軽い』といったイメージで判断しないことです。どちらを選んだとしても、不眠に悩むあなたのつらさを理解し、一緒に解決策を探してくれる専門家がいます。心配しすぎず、通いやすい方、あるいは信頼できそうだと感じたクリニックを選んでみてください。

専門機関:睡眠外来(睡眠センター) – 睡眠に関するあらゆる問題を総合的に検査・治療

睡眠外来睡眠センターは、その名の通り「睡眠」に関するあらゆる疾患を専門的に診断・治療する機関です。

精神科医、内科医、耳鼻咽喉科医など、様々な分野の専門家が連携していることが多く、より高度で専門的な検査や治療が可能です。

特に、睡眠時無呼吸症候群や、足がむずむずして眠れないむずむず脚症候群、日中に突然強い眠気に襲われるナルコレプシーなど、特殊な睡眠障害が疑われる場合には、睡眠外来が最適です。

一晩入院して脳波や呼吸の状態を調べる「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)」などの精密検査を受けることができます。

原因が他の病気にある場合①:内科・循環器内科 – 高血圧や心臓の病気が疑われるケース

不眠の原因が、体の病気(身体疾患)にあることも少なくありません。

例えば、高血圧や心不全、喘息などの呼吸器疾患、甲状腺機能亢進症といった内科系の病気は、症状そのものや治療薬の副作用によって睡眠を妨げることがあります。

動悸、息切れ、咳、体のむくみといった症状が不眠と同時に現れている場合は、まず内科循環器内科で原因となっている身体疾患の治療を優先すべきです。

体の病気が改善することで、不眠も自然と解消されるケースが多くあります。

原因が他の病気にある場合②:耳鼻咽喉科 – いびきや睡眠時無呼吸症候群が原因のケース

家族から「いびきがうるさい」「寝ているときに呼吸が止まっているようだ」と指摘されたことはありませんか。

その場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があります。

これは、睡眠中に気道が塞がって一時的に呼吸が止まることを繰り返し、体が酸欠状態になる病気です。

脳が危険を察知して何度も覚醒するため、深い睡眠がとれず、熟眠障害や日中の強い眠気の原因となります。

主な原因は、肥満による首周りの脂肪沈着や、扁桃腺の肥大、顎の骨格などです。

耳鼻咽喉科では、鼻や喉の状態を診察し、簡易検査やCPAP(シーパップ)療法と呼ばれる専門的な治療を行います。

原因が他の病気にある場合③:整形外科 – 体の痛みで眠れないケース

腰痛、肩こり、関節痛など、体のどこかに慢性的な痛みがあると、その痛み自体が気になって寝付けなかったり、寝返りを打つたびに目が覚めてしまったりします。

このような「痛み」が原因で眠れない場合は、痛みの根本原因を治療することが先決です。

整形外科を受診し、適切な診断と治療(投薬、リハビリテーションなど)を受けることで、痛みが和らぎ、結果として睡眠の質も改善されることが期待できます。

まずは相談:かかりつけ医 – どこに行けばいいか分からない時の最初の相談窓口

「どの科にも当てはまる気がする」
「どこから手をつければいいか分からない」

と悩んでしまったら、まずは普段から風邪などで通院しているかかりつけ医に相談するのも良い方法です。

かかりつけ医は、あなたの体質や既往歴をよく理解してくれています。

まずは一般的な診察や血液検査などで身体的な問題がないかを確認し、必要に応じて最適な専門の医療機関を紹介してくれます。

一人で抱え込まず、信頼できる身近な専門家を頼るという選択肢も持っておきましょう。

あなたの不眠はどのタイプ?主な原因と症状の4分類

一言で「不眠」と言っても、その症状の現れ方は人それぞれです。

医師に自分の状態を正確に伝えるためにも、まずはご自身の不眠がどのタイプに当てはまるのかを理解しておきましょう。

不眠症は、主に4つのタイプに分類されます。

入眠障害:ベッドに入ってもなかなか寝付けない

これは不眠症の中で最も多いタイプで、いわゆる「寝付きが悪い」状態です。

ベッドに入ってから眠りにつくまでに30分〜1時間以上かかるのが特徴です。

眠ろうとすればするほど、かえって目が冴えてしまい、不安や焦りを感じてしまうことも少なくありません。

ストレスや不安が強い時に現れやすいタイプです。

中途覚醒:夜中に何度も目が覚めてしまう

睡眠の途中で、意図せず何度も目が覚めてしまい、その後なかなか寝付けなくなるタイプです。

年齢とともに眠りが浅くなることで現れやすくなりますが、若年層でもストレスや睡眠時無呼吸症候群、夜間頻尿などが原因で起こります。

一度目が覚めると、仕事のことなどを考え始めてしまい、朝まで眠れなくなるケースも見られます。

早朝覚醒:起きたい時間よりずっと早く目覚めてしまう

自分が予定している起床時間よりも2時間以上も早く目が覚めてしまい、その後二度寝ができない状態です。

十分な睡眠時間が確保できないため、日中の眠気につながります。このタイプは、体内時計のリズムが乱れていることや、うつ病の初期症状として現れることがあるため、特に注意が必要です。

熟眠障害:ぐっすり眠れた感じがしない

睡眠時間は十分に取れているはずなのに、朝起きた時に「ぐっすり眠れた」という満足感が得られないタイプです。

「疲れが取れない」「頭がすっきりしない」といった感覚を伴います。睡眠の質が低下している状態で、睡眠時無呼吸症候群や、睡眠中の体の動き(周期性四肢運動障害など)が原因となっている可能性があります。

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

臨床の現場では、これらのタイプが単独で現れるよりも、例えば『寝付きが悪く(入眠障害)、途中で目も覚めてしまう(中途覚醒)』というように、複数のタイプを合併している方がほとんどです。また、30代の女性の場合、仕事のストレスなどに加えて、月経周期に伴うホルモンバランスの変化が睡眠に影響を与えることも少なくありません。ご自身の症状がどのタイプに近いか、またどのような周期で悪化するかなどを意識しておくと、診察の際に非常に役立ちます。

不眠を引き起こす5つの主な原因(ストレス・生活習慣・身体疾患など)

では、なぜこれらの不眠症状が起こるのでしょうか。

厚生労働省の情報などによると、原因は大きく5つに分類されます。

症状タイプと主な原因の対応表

心理的原因 (ストレス等)身体的原因 (痛み・無呼吸等)精神医学的原因 (うつ病等)薬理学的原因 (薬・嗜好品)生理学的原因 (環境・リズム)
入眠障害
中途覚醒
早朝覚醒
熟眠障害

(◎:非常に関連が深い, ○:関連がある, △:関連が比較的少ない)

初めての不眠症外来|予約から初診、治療の流れを完全ガイド

専門医への相談を決意しても、「病院で何をされるんだろう」「うまく話せるかな」といった新たな不安が生まれるかもしれません。

このセクションでは、初めて不眠症で病院を受診する際の具体的な流れや準備について、ステップ・バイ・ステップで詳しく解説します。

事前に流れを知っておくことで、安心して受診に臨むことができます。

STEP1:病院を探して予約する(オンライン予約のポイント)

まずは、通院する医療機関を探しましょう。

先のセクションを参考に診療科を選び、自宅や職場から通いやすい場所にあるクリニックをいくつかリストアップします。

最近では、ほとんどのクリニックが公式ウェブサイトを持っており、オンラインで24時間予約を受け付けているところも増えています。

ウェブサイトでは、医師の経歴や専門分野、クリニックの診療方針などを確認できます。

「睡眠障害の治療に力を入れている」といった記載があれば、より専門的なケアが期待できるでしょう。

初診の場合は、問診票の記入などで時間がかかるため、時間に余裕を持って予約することをおすすめします。

STEP2:初診前に準備しておくと良いこと – 睡眠日誌のススメ

受診日が決まったら、初診に向けて少しだけ準備をしておきましょう。

最もおすすめなのが「睡眠日誌」をつけることです。

これは、ご自身の睡眠パターンを客観的に記録するもので、医師が診断を下す上で非常に重要な情報源となります。

難しく考える必要はありません。

手帳やノートに、以下の項目を思い出せる範囲で数日間記録しておくだけで十分です。

▼睡眠日誌のテンプレートを見る

この記録があることで、「なんとなく眠れていない」という主観的な訴えが、「週に3回、入眠に1時間かかり、夜中に2回目が覚める」といった客観的なデータになり、より的確な診断と治療につながります。

STEP3:初診当日の流れ – 問診・心理検査・診断

当日は、予約時間の少し前に到着し、受付を済ませます。

保険証を忘れずに持参しましょう。

多くの場合、初診ではまず詳細な問診票を記入します。

診察室では、医師が問診票と睡眠日誌(あれば)を基に、あなたの症状について詳しく質問します。

これが問診です。

リラックスして、ありのままの状態を話すことが大切です。

必要に応じて、うつ病のスクリーニングなど、簡単な心理検査(質問紙)を行うこともあります。

これらの情報から、医師はあなたの不眠のタイプや原因を判断し、診断を下します。

尾内医師 (精神科専門医) が教える「問診で医師に伝えてほしいこと」

診察時間は限られていますので、要点をまとめて伝えていただけると、より的確な診断が可能になります。特に以下の点は、専門家の立場からぜひお伺いしたい情報です。

STEP4:不眠症の主な治療法 – 薬物療法と非薬物療法

診断に基づき、医師はあなたに合った治療方針を提案します。

不眠症の治療は、大きく分けて「薬物療法」と「非薬物療法」の2つの柱があります。

多くのケースでは、まず薬物療法でつらい症状を軽減しつつ、並行して非薬物療法を行い、最終的には薬がなくても眠れる状態を目指します。

睡眠薬への不安について専門医が解説

「睡眠薬」と聞くと、「一度飲んだらやめられなくなるのでは?」「副作用が怖い」といった不安を感じる方が多いかもしれません。

確かに、かつて主流だったベンゾジアゼピン系などの古いタイプの睡眠薬には依存性の問題がありました。

しかし、新しい世代の睡眠薬は作用の仕組みが異なり、安全性も大きく向上しています。

特に、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬といった最新の薬は、依存のリスクが極めて低いとされています。

主な医療用睡眠薬の種類と特徴

系統作用機序主な用途主な副作用依存性リスク代表的な薬剤名
オレキシン受容体拮抗薬覚醒を維持するオレキシンの働きを阻害し、自然な眠りを促す入眠障害、中途覚醒悪夢、傾眠極めて低いレンボレキサント、スボレキサント
メラトニン受容体作動薬睡眠ホルモンであるメラトニンの受容体に作用し、体内時計を整える入眠障害傾眠、倦怠感極めて低いラメルテオン
非ベンゾジアゼピン系脳の活動を抑えるGABA受容体に選択的に作用し、催眠作用を主とする主に入眠障害健忘、ふらつき、苦味注意が必要ゾルピデム、エスゾピクロン
ベンゾジアゼピン系GABA受容体に広く作用し、催眠作用のほか抗不安・筋弛緩作用も持つ入眠障害、中途覚醒持ち越し効果、ふらつき、健忘比較的高いブロチゾラム、トリアゾラム

医師は、あなたの症状やライフスタイルに合わせて、最も副作用の少ない薬を慎重に選択します。

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

『睡眠薬は癖になるのでは?』というご心配は、患者さんから本当によくお聞きします。そのお気持ちはよく分かります。しかし、現在の医療では、睡眠薬は『不眠の悪循環を断ち切るための有効なツール』と位置づけられています。眠れない日が続くと、『今夜も眠れないかもしれない』という不安がさらに不眠を悪化させます。まずは専門医の指導のもとで適切に薬を使い、成功体験としての『眠れる夜』を取り戻すことが、回復への重要な一歩なのです。薬に関する不安や疑問は、遠慮なく医師にぶつけてください。納得できるまで丁寧に説明するのが私たちの役目です。

治療にかかる費用とおおよその期間の目安

不眠症の治療は、健康保険が適用されます。

初診の場合、診察料や検査料、処方箋料などを合わせて、自己負担3割の方でおよそが目安です(別途、薬局での薬代がかかります)。

再診の場合は、1,500円前後が一般的です。

治療期間は、症状の重さや原因によって大きく異なります。

数週間で改善する軽症のケースから、数ヶ月〜年単位での治療が必要なケースまで様々です。

焦らず、医師と相談しながらじっくりと治療に取り組むことが大切です。

薬に頼らない選択肢も。認知行動療法(CBT-I)とは

薬物療法はつらい症状を和らげるのに非常に有効ですが、不眠の根本的な解決を目指す上では、薬に頼らないアプローチも重要です。

その代表格が「不眠症に対する認知行動療法(CBT-I: Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia)」です。

不眠症の根本改善を目指す「認知行動療法(CBT-I)」の基本

認知行動療法(CBT-I)とは、睡眠に対する誤った思い込みや習慣(認知)を修正し、睡眠を妨げる行動を改善していくことで、不眠の悪循環を断ち切る心理療法の一種です。

欧米の治療ガイドラインでは、不眠症に対する第一選択の治療法として推奨されており、薬物療法と同等、あるいはそれ以上の効果が長期的に持続することが示されています。

ただし、日本国内では診療報酬などの制度的要因から、まず薬物療法が選択されることも少なくありません。

しかし、その有効性は確立されており、近年では保険適用を目指すスマートフォンアプリなど、より利用しやすい形で提供され始めています。

「眠れないから早くベッドに入ろう」「眠くなるまでスマホを見よう」といった、不眠を悪化させがちな行動パターンを見直し、脳に正しい睡眠リズムを再学習させていくことを目指します。

認知行動療法(CBT-I)の具体的な進め方

CBT-Iは、専門家(医師や臨床心理士)とのカウンセリングを通じて、通常4〜8回のセッションにわたって行われます。

具体的には、以下のようなアプローチを組み合わせて進められます。

アプリやオンラインで受けられるサービスも

近年では、医療機関に通わなくても、スマートフォンアプリやオンラインプログラムを通じてCBT-Iを受けられるサービスも登場しています。

これらのサービスは、専門家の指導のもと、自分のペースでプログラムを進めることができるため、忙しい方や近くに専門機関がない方にとって有力な選択肢となり得ます。

ご興味のある方は、医師に相談してみるのもよいでしょう。

不眠症に対する認知行動療法は、不眠症の改善に有効な治療法として科学的に効果が実証されています。

不眠症の病院受診に関するよくある質問(FAQ)

最後に、不眠症の病院受診に関して、多くの方が抱く疑問についてQ&A形式でお答えします。

Q. 妊娠中や授乳中でも受診できますか?

A. はい、もちろん受診できます。

妊娠中や授乳中は、ホルモンバランスの変化や体の負担から不眠になりやすい時期ですが、薬の使用には慎重な判断が必要です。

自己判断で市販薬を飲むことは絶対に避けてください。産婦人科医と連携しながら、薬に頼らない生活習慣の工夫や、安全に使用できる漢方薬などを提案できる場合もありますので、まずは専門医にご相談ください。

Q. オンライン診療でも不眠症は診てもらえますか?

A. はい、対応している医療機関であれば可能です。

新型コロナウイルス感染症の拡大以降、オンライン診療を導入する精神科・心療内科が増えています。

仕事が忙しくて通院時間が取れない方や、対面での診察に抵抗がある方にとって、有用な選択肢です。

ただし、初診は対面での診察が必要な場合や、処方できる薬に制限がある場合もありますので、事前に各クリニックにご確認ください。

Q. 診断書はもらえますか?

A. はい、医師が必要と判断した場合は発行されます。

不眠症が原因で休職が必要な場合など、正式な診断に基づき診断書を作成することが可能です。

ただし、診断書の目的や提出先によって記載内容が異なるため、診察の際に医師にその旨を詳しくお伝えください。

Q. 家族やパートナーにできることはありますか?

A. まずは、本人のつらさに寄り添い、話をじっくり聞いてあげることが大切です。

「気の持ちようだ」「もっと頑張れ」といった励ましは、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。

「眠れないのはつらいね」と共感的に接し、専門医への受診を一緒に検討してあげるのが良いでしょう。

また、本人が安心して眠れるよう、寝室の環境を整える(音や光を遮るなど)手助けも有効です。

まとめ:一人で悩まず、専門家に相談して質の良い睡眠を取り戻しましょう

今回は、不眠症で病院に行くべきか悩んでいる方のために、受診の目安から診療科の選び方、初診の流れまでを詳しく解説しました。

つらい不眠の悩みは、一人で抱え込んでいると、出口のないトンネルのように感じられるかもしれません。

しかし、不眠症は適切な診断と治療によって、必ず改善が期待できる症状です。

この記事でご紹介したポイントを、ぜひあなたの次の一歩のために役立ててください。

要点チェックリスト

チェック項目ポイント
受診の目安☐ 不眠が1ヶ月以上続いたら受診のサイン
診療科の選択☐ まずは「精神科」「心療内科」が基本の選択肢
選び方のコツ☐ 自分の症状や原因に合わせて診療科を選ぶことが大切
受診の準備☐ 睡眠日誌をつけておくと診察がスムーズに
治療法☐ 治療法は睡眠薬だけでなく、認知行動療法などもある

尾内医師 (精神科専門医) からのメッセージ

この記事を最後まで読んでくださったあなたは、ご自身の睡眠の問題に真剣に向き合い、解決したいと強く願っている方だと思います。その一歩を踏み出そうとしていること自体が、回復への大きな前進です。質の良い睡眠は、より良い毎日を送るための大切な基盤です。どうぞ一人で悩まず、私たち専門家を頼ってください。あなたに合った解決策を、一緒に見つけていきましょう。

参考文献

  1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症」 
  2. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」 
  3. 日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」 
  4. 国立精神・神経医療研究センター「働く人のための睡眠・覚醒リズム講座」 
  5. 精神神経学雑誌「気分障害診療における不眠管理の実態とその問題点」 
  6. 国立精神・神経医療研究センター「不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)マニュアル」関連資料 
  7. 厚生労働省 科学研究費補助金研究報告書「睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究」 
  8. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「サスメド 不眠障害用治療アプリ 医療機器(プログラム)の承認について」 
  9. 日本睡眠学会「不眠症治療用アプリの保険適用に関する要望書」 
  10. 厚生労働省「精神障害の労災認定基準について」 

この記事を書いた人

葛飾橋病院

葛飾橋病院では精神科、神経科、内科、放射線科、歯科と様々な診療、治療を行っています。職員一同心をひとつに合わせて、患者様、ご家族の皆さまに心から安心していただけるホスピタルづくりを進めており、地域に密着した精神科医療の活性化に尽力していきます。当ブログでは精神科を中心とした記事を作成し患者様の心を少しでも和らげられるような発信をしていきます。