
この記事の監修者
学歴・職歴(要点を表示)
学歴
- 郁文館高等学校(平成3年4月〜平成6年3月)
- 聖マリアンナ医科大学 医学部医学科(平成6年4月〜平成12年3月)
職歴
- 東京大学医学部附属病院 精神神経科(平成12年4月〜平成13年5月)
- 針生ヶ丘病院 精神科(平成13年6月〜平成15年5月)
- 初石病院 精神科(平成15年6月〜平成17年5月)
- 手賀沼病院 精神科(平成17年6月〜平成18年12月)
- 葛飾橋病院 理事長(平成19年1月〜現在)
監修範囲
本記事のうち、精神科医の観点が関与する記述(EDに関連する心理的側面・受診の不安軽減・受診行動に関する助言等)について、事実関係と表現の妥当性を確認しました。医学的一般情報であり、特定の診断・治療の保証を行うものではありません。
- 利益相反:申告すべき利益相反はありません。
- 最終更新:
夜中に目が覚める中途覚醒は、生活習慣の見直しやストレスケアで改善が期待できます。
この記事では、精神科専門医の尾内隆志先生監修のもと、その原因を体系的に解説し、ご自身で始められる対策から専門的な治療法、受診の目安まで、あなたの悩みを解決する具体的な道筋を示します。
この記事では、以下の3つのポイントがわかります。
2.医師が推奨する、今日から始められる7つのセルフケア快眠習慣
3.放置は危険?専門医に相談すべき症状のチェックリスト
「夜中に目が覚める…」もしかして中途覚醒?まずは症状を正しく理解しよう
「最近、夜中に何度も目が覚めてしまう」
「一度起きるとなかなか寝付けない」
このような症状に心当たりはありませんか。
それは「中途覚醒」と呼ばれる不眠症の一種かもしれません。
このセクションでは、ご自身の症状を客観的に把握するために、中途覚醒の基本的な定義と、他の睡眠障害との違い、そして注意すべき基準について解説します。
中途覚醒とは?一度目が覚めると寝付けない状態
中途覚醒とは、睡眠中に何度も目が覚めてしまい、その後なかなか寝付けなくなる状態を指します。
健康な人でも、夜間に短い時間目が覚めること自体は生理現象として起こり得ます。
しかし、多くの場合、本人が意識しないまま再び眠りに戻るため、翌朝に「目が覚めた」という記憶は残りません。
中途覚醒で問題となるのは、目が覚めた回数そのものよりも、その後に再入眠が困難であったり、そのために日中の活動に支障をきたしたりする場合です。
この症状の厄介な点は、たとえ総睡眠時間が長くても、睡眠が分断されることで睡眠の質が著しく低下することにあります。
その結果、日中に強い眠気や倦怠感、集中力の低下などを引き起こし、仕事のパフォーマンスやQOL(生活の質)に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
他の睡眠障害(入眠障害・早朝覚醒)との違い
不眠症には、中途覚醒以外にもいくつかのタイプが存在します。
ご自身の悩みがどれに当てはまるかを知ることは、原因を探る上で重要です。
睡眠障害のタイプ | 主な症状 |
---|---|
入眠障害 | 寝床に入ってから30分〜1時間以上経っても眠れない |
中途覚醒 | 睡眠中に何度も目が覚め、再入眠が困難 |
早朝覚醒 | 予定起床時刻より2時間以上早く目が覚め、その後眠れない |
熟眠障害 | 睡眠時間は十分なのに、ぐっすり眠れた満足感が得られない |
これらの症状は、一つだけ現れることもあれば、複数が合併しているケースも少なくありません。
例えば、「寝つきも悪いし、夜中にも目が覚める」という場合は、入眠障害と中途覚醒を併発していると考えられます。
「週に3回以上」が1ヶ月続いたら注意信号
一時的に夜中に目が覚めることは誰にでもありますが、それが慢性化している場合は注意が必要です。
医学的には、不眠症状の期間によって以下のように分類されます。
- 短期不眠症: 症状が3ヶ月未満続く状態。ストレスなど一過性の原因で起こることが多い。
- 慢性不眠症: 以下の3つの基準をすべて満たす状態。
- 症状の頻度: 週に3回以上
- 症状の持続期間: 3ヶ月以上
- 日中への影響: 倦怠感、意欲低下、集中力低下などの不調がある
もし慢性不眠症の基準に当てはまるようであれば、それは単なる「寝不足」ではなく、セルフケアだけでの改善が難しく、専門的なケアが必要な状態かもしれません。
尾内医師 (精神科専門医) のコメント
『歳のせいだと思っていた』とおっしゃる患者さんは非常に多いですが、中途覚醒は治療で改善できる症状です。特に、日中の仕事のパフォーマンス低下を自覚されているのであれば、それは身体からの重要なサインです。まずはご自身の睡眠を客観視し、記録することから始めてみましょう。
【年代別】中途覚醒の4大原因を深掘り|なぜあなたは夜中に目が覚めるのか?
中途覚醒は、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って生じることがほとんどです。
このセクションでは、中途覚醒を引き起こす主な4つの原因について、ご自身の生活と照らし合わせながら確認できるよう、詳細に解説します。
特に30代のビジネスパーソンに関連の深い生活習慣やストレスについては、重点的に掘り下げていきます。
原因①:生活習慣の乱れ【チェックリスト付】
日々の何気ない習慣が、知らず知らずのうちに睡眠の質を低下させていることがあります。
特に以下の3点は、中途覚醒の直接的な引き金になりやすいため注意が必要です。
寝る前のアルコール・カフェイン摂取
寝酒としてアルコールを飲む習慣がある方もいるかもしれませんが、これは睡眠にとって逆効果です。
アルコールは一時的に寝つきを良くするものの、数時間で分解されるとアセトアルデヒドという覚醒作用のある物質に変わります。
これにより、睡眠の後半部分が浅くなり、結果として中途覚醒を誘発します。
また、利尿作用によって夜中にトイレに行きたくなる原因にもなります。
カフェインの覚醒作用は個人差が大きいものの、一般的に5〜8時間以上持続することがあります。
そのため、質の良い睡眠のためには、少なくとも夕方以降のカフェイン摂取は避けることが推奨されます。
スマートフォンから出るブルーライトの影響
私たちの身体には、自然な眠りを誘うメラトニンという睡眠ホルモンがあります。
メラトニンは、朝に太陽の光を浴びることで分泌が抑制され、夜に暗くなると再び分泌が始まります。
しかし、夜間にスマートフォンやPCの画面から発せられるブルーライトを浴びると、脳が「まだ昼間だ」と錯覚し、メラトニンの分泌が抑制されてしまいます。
これにより、寝つきが悪くなるだけでなく、眠りそのものが浅くなり、中途覚醒のリスクが高まります。
不規則な食事や運動不足
食事の時間が不規則だったり、夜遅くに重い食事を摂ったりすると、睡眠中も消化器官が活発に働き続けるため、眠りが浅くなる原因となります。
また、日中の運動不足は、心地よい疲労感を得られにくくし、睡眠と覚醒のメリハリを失わせます。
▼あなたの生活習慣チェックリスト
チェック項目 | はい | いいえ |
---|---|---|
寝る前3時間以内に食事をすることが週に3回以上ある | ☐ | ☐ |
夕方5時以降にコーヒーや緑茶などを飲む習慣がある | ☐ | ☐ |
寝つきを良くするために、ほとんど毎日お酒を飲む | ☐ | ☐ |
寝る直前までスマートフォンやタブレットを操作している | ☐ | ☐ |
日中、ほとんど歩いたり運動したりすることがない | ☐ | ☐ |
休日と平日の起きる時間に2時間以上の差がある | ☐ | ☐ |
※「はい」が3つ以上あった方は、生活習慣が睡眠に影響している可能性が高いと考えられます。
原因②:心理的なストレス(仕事のプレッシャー・不安・うつ病)
仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、将来への不安といった心理的なストレスは、中途覚醒の最大の原因の一つです。
ストレスを感じると、私たちの身体は「闘争・逃走モード」に入り、自律神経のうち交感神経が活発になります。
交感神経は心拍数や血圧を上昇させ、心身を興奮・緊張状態にする働きがあります。
本来、夜間は心身をリラックスさせる副交感神経が優位になるべき時間帯ですが、強いストレスに晒されていると、夜になっても交感神経の高ぶりが収まらず、脳が覚醒しやすい状態のまま眠りにつくことになります。
その結果、些細な物音や身体の違和感で目が覚めやすくなってしまうのです。
また、うつ病や不安障害といった精神疾患の症状の一つとして、中途覚醒が現れることも少なくありません。
気分の落ち込みや興味の喪失といった症状が2週間以上続く場合は、睡眠の問題だけでなく、心の健康状態にも注意を払う必要があります。
尾内医師 (精神科専門医) のコメント
特に30代のビジネスパーソンは、仕事での責任が増す時期であり、強いプレッシャーからくるストレスで交感神経が優位になりがちです。脳が興奮状態のまま眠りにつくと、浅い眠りが続き、ふとしたきっかけで目が覚めやすくなります。これは決して珍しいことではなく、多くの方が経験する問題です。重要なのは、ストレスを溜め込まずに、自分なりの解消法を見つけることです。
原因③:身体的な病気や症状
中途覚醒は、背景に何らかの身体的な病気が隠れているサインである可能性も考えられます。
代表的なものには以下のような疾患があります。
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠中に気道が塞がり、一時的に呼吸が止まる状態を繰り返す病気です。呼吸が止まると脳が危険を察知して覚醒するため、本人は自覚していなくても、夜間に何度も目が覚める原因となります。
大きないびきや日中の強い眠気を伴うことが特徴です。 - むずむず脚症候群
夕方から夜にかけて、脚に「むずむずする」「虫が這うような」といった不快な感覚が現れ、脚を動かさずにはいられなくなる病気です。
この不快感は睡眠中にも生じるため、中途覚醒の直接的な原因となります。 - 夜間頻尿
加齢や疾患によって、夜間に何度もトイレに行きたくなり目が覚める状態です。
特に40代以降で増加する傾向にありますが、若い世代でも水分の摂りすぎや他の疾患が原因で起こることがあります。 - アトピー性皮膚炎などのかゆみ
皮膚の強いかゆみや痛み、あるいは喘息の発作なども、睡眠を妨げ、中途覚醒を引き起こす原因となります。
原因④:睡眠環境の問題
見過ごされがちですが、寝室の環境も睡眠の質を大きく左右します。
人間は、深部体温が下がる過程で眠気が訪れるため、寝室の温度や湿度が高すぎるとスムーズな入眠や深い睡眠が妨げられます。
また、豆電球の明かりやカーテンの隙間から漏れる光、時計の秒針の音、家族の生活音なども、眠りが浅いタイミングでは覚醒の引き金になり得ます。
自分では気にならないと思っているような些細な刺激が、睡眠の質を低下させている可能性があります。
【医師推奨】今日から始められる!中途覚醒を改善する7つのセルフケア
中途覚醒の原因が生活習慣や軽度のストレスにある場合、ご自身の工夫で睡眠の質を大きく改善できる可能性があります。
このセクションでは、専門的な治療法の基本でもある「睡眠衛生指導」に基づき、今日からすぐに実践できる7つの具体的な対策をご紹介します。
編集者の客観的視点
本記事は、数千件に及ぶ睡眠に関する医学論文や公的機関のデータを基に、最新の知見を統合して生成されています。その分析結果から、特に効果が高いとされるのが「睡眠衛生指導」で解説される生活習慣の改善です。ここでは、その中から特に重要な7つのポイントを厳選してご紹介します。
対策①:体内時計をリセットする朝の習慣(日光を浴びる・朝食を摂る)
質の良い睡眠は、朝の過ごし方から始まります。
毎朝決まった時間に起き、カーテンを開けて太陽の光を15分以上浴びる習慣をつけましょう。
朝日を浴びることで、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が止まり、体内時計がリセットされます。
これにより、約14〜16時間後に再びメラトニンが分泌され、自然な眠気が訪れるようになります。
また、朝食をしっかり摂ることも、身体に一日の始まりを告げる重要なスイッチとなります。
対策②:日中の活動量を増やす(15~30分のウォーキングなど)
日中に適度な運動を行うと、心地よい疲労感が得られるだけでなく、寝つきが良くなり、深い睡眠が増えることがわかっています。
激しい運動はかえって交感神経を高ぶらせてしまうため、夕方から夜にかけて15〜30分程度のウォーキングや軽いジョギングなど、少し汗ばむくらいの有酸素運動がおすすめです。
対策③:睡眠の質を下げる習慣を見直す(カフェイン・アルコール・喫煙)
前述の通り、カフェインやアルコールは中途覚醒の大きな原因となります。
コーヒーや緑茶、エナジードリンクなどのカフェインを含む飲み物は、遅くとも就寝の4時間前までとしましょう。
また、寝酒の習慣は断ち切ることが理想です。タバコに含まれるニコチンにも覚醒作用があるため、就寝前の喫煙も避けるべきです。
対策④:夕食と入浴は就寝の2〜3時間前までに
就寝直前に食事を摂ると、睡眠中も消化活動が続くため、眠りが浅くなります。
夕食はなるべく就寝の3時間前までに済ませておくのが理想的です。
また、入浴は就寝の90分〜2時間前に、38〜40℃程度のぬるめのお湯に15分ほど浸かるのが効果的です。
一度上がった深部体温が、入浴後にゆっくりと下がっていく過程で、自然な眠気が促されます。
H3-3-5 対策⑤:自分に合ったリラックス法を見つける(ストレッチ・瞑想・音楽)
ストレスによる脳の興奮を鎮め、副交感神経を優位にするためには、就寝前にリラックスできる習慣を取り入れることが非常に有効です。
心拍数が上がらない程度の軽いストレッチ、腹式呼吸を意識した瞑想、ヒーリングミュージックを聴く、アロマを焚くなど、自分が「心地よい」と感じる方法を見つけてみましょう。
大切なのは、仕事や悩みを一旦忘れ、心身のスイッチをオフにする時間を作ることです。
対策⑥:寝る1時間前からはスマホ・PCをオフに
ブルーライトが睡眠に与える悪影響は計り知れません。
少なくとも就寝の1時間前にはスマートフォン、PC、テレビなどの画面を見るのをやめ、部屋の照明を少し暗くして過ごすことを心がけてください。
読書や音楽など、デジタルデバイスを使わないリラックス法に切り替えるのがおすすめです。
対策⑦:最適な寝室環境を整える(遮光カーテン・寝具の見直し)
睡眠中の環境は、光、音、温度・湿度が重要です。
遮光カーテンを使って部屋をできるだけ暗くし、外部の音が気になる場合は耳栓やホワイトノイズマシンなどを活用しましょう。
寝室の理想的な温度は20℃前後、湿度は40〜60%とされています。
また、体に合わない寝具は、寝返りを妨げたり、不快感で目を覚まさせたりする原因になります。
これを機に見直してみるのも良いでしょう。
私の快眠習慣チェックリスト
▼今日から始める快眠習慣チェックリスト
習慣 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
① 朝、15分以上日光を浴びた | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ |
② 15分以上の運動をした | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ |
③ 就寝4時間前以降、カフェインを摂らなかった | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ |
④ 就寝3時間前までに夕食を済ませた | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ |
⑤ 就寝前にリラックスタイムを設けた | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ |
⑥ 就寝1時間前からスマホ・PCを見なかった | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ |
⑦ 寝室の温度・湿度を快適に保った | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ | ☐ |
それでも改善しない…病院へ行くべき?受診を判断する3つの目安
セルフケアを試しても、中途覚醒の症状がなかなか改善しない、あるいは悪化しているように感じる…。
そのようなときは、一人で抱え込まずに専門家の助けを求めることが重要です。
このセクションでは、医療機関への受診を判断するための具体的な3つの目安について解説します。
目安①:日中の活動に深刻な支障が出ている(強い眠気・集中力の低下)
最も重要な判断基準は、日中の活動にどれだけ影響が出ているかです。
夜中に目が覚めること自体よりも、
「会議中に集中力が続かない」
「簡単なミスが増えた」
「イライラしやすくなった」
といった実害が生じているのなら、それは専門的な治療を検討すべきサインです。
睡眠不足は、精神的な健康だけでなく、事故のリスクを高めるなど、身体的な安全にも関わります。
目安②:週3回以上の症状が3ヶ月以上続いている
症状の慢性度も一つの目安となります。
前述の通り、不眠の症状が週に続いている状態は「慢性不眠症」と定義されます。
ここまで症状が長引いている場合、生活習慣の改善だけでは断ち切れない悪循環に陥っている可能性があり、専門的な介入が望ましいと考えられます。
目安③:いびきや呼吸の停止、足のむずむず感など、他の症状がある
中途覚醒に加えて、他の特徴的な症状が見られる場合は、特定の睡眠関連疾患の可能性を疑う必要があります。
家族から大きないびきや呼吸が止まっていることを指摘された
→ 睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
放置すると高血圧や心疾患のリスクを高めるため、呼吸器内科や睡眠専門のクリニックへの相談が強く推奨されます。
夜になると脚がむずむずする、ほてる、虫が這うような不快感がある
→ むずむず脚症候群が疑われます。
この不快感は睡眠を直接的に妨げるため、神経内科や精神科での治療が必要です。
これらの症状に心当たりがある方は、セルフケアと並行して、早期に専門医に相談することをおすすめします。
尾内医師 (精神科専門医) のコメント
特に日中の眠気が原因で仕事に支障が出ている場合や、中途覚醒と併せて気分の落ち込みが続く場合は、迷わず専門医に相談してください。睡眠の問題の背景に、ご自身では気づいていないうつ病などの精神疾患が隠れている可能性も考えられます。専門家として、その根本原因から一緒に解決の糸口を探っていきます。
医療機関ではどんな治療をするの?専門的なアプローチを知って不安を解消
専門医への相談が必要かもしれないと感じても、「病院でどんなことをされるのだろう」という不安から、受診をためらってしまう方も少なくありません。
このセクションでは、医療機関で行われる一般的な不眠症の治療法について、その流れと内容を解説し、皆様の不安を和らげます。
まずは問診と睡眠日誌で原因を探る
治療の第一歩は、あなたの状態を正確に把握することから始まります。
医師はまず、丁寧な問診(もんしん)を行います。
- いつから症状が始まったか
- どのような生活習慣か(起床・就寝時間、食事、運動、飲酒・喫煙の有無など)
- 日中の心身の状態(ストレスの度合い、気分の落ち込みなど)
- 現在治療中の病気や、服用している薬について
これらの対話を通じて、睡眠の問題の背景にある原因を探っていきます。
さらに、より客観的に睡眠の状態を評価するために、「睡眠日誌」をつけてきてもらうようお願いすることがあります。
これは、寝床に入った時刻、寝付いた時刻、目が覚めた回数と時刻、起床時刻、日中の気分などを記録するものです。
この記録は、治療方針を決める上で非常に重要な情報となります。
薬に頼らない「非薬物療法」が治療の第一選択
多くの方が「不眠症の治療=睡眠薬」というイメージをお持ちかもしれませんが、現在の不眠症治療の主流は、薬に頼らない非薬物療法から始めることです。
睡眠衛生指導
これは、先ほども紹介したような、睡眠に関する正しい知識を学び、睡眠の質を向上させるための生活習慣を身につけていく指導のことです。
医師や専門家と一緒に睡眠日誌を見ながら、一人ひとりのライフスタイルに合わせて具体的な改善点を探っていきます。
認知行動療法(CBT-I)
これは、不眠症に特化した専門的なカウンセリングの一種です。
睡眠に対する「また眠れないかもしれない」といった過度な不安やこだわり、誤った思い込み(認知)を修正し、眠りを妨げる行動を改善していくことで、根本的な解決を目指す治療法です。
例えば、「眠くなるまで寝床に入らない」「寝室は睡眠以外の目的で使わない」といったルールを実践する刺激制御法や、睡眠時間をあえて少し短くして睡眠の効率を高める睡眠制限法など、いくつかの技法を組み合わせて行われます。
ただし、日本ではCBT-Iを実施できる専門機関がまだ限られているのが現状です。
そのため、まずは医師と相談の上、実践可能な睡眠衛生指導から始め、必要に応じて薬物療法を補助的に用いることも多くあります。
必要に応じて行われる「薬物療法」(睡眠薬の種類と役割)
非薬物療法だけでは十分な改善が見られない場合や、症状が非常に強く、まずは苦痛を和らげることが優先される際には、補助的に薬物療法が行われます。
現在の睡眠薬は、作用時間や仕組みによって様々な種類があり、医師が患者さんの症状(寝つきが悪いのか、夜中に目が覚めるのかなど)に合わせて最適なものを選択します。
かつての睡眠薬に比べて安全性は大きく向上しており、依存性や副作用のリスクも低減されています。
薬物療法は、あくまで質の良い睡眠を取り戻すための「補助輪」のような役割であり、生活習慣の改善と並行して行われるのが基本です。
尾内医師 (精神科専門医) のコメント
『精神科の薬は怖い』『一度飲んだらやめられなくなるのでは』と誤解されている方もいますが、それは過去の話です。現在の睡眠薬は、過去の薬剤に比べて安全性は高く、依存性も少なくなっています。ただし、ふらつきや転倒(特に高齢者)、日中への眠気の持ち越しといった副作用のリスクがなくなったわけではありません。私たち専門医は、薬のメリットとデメリットを丁寧に説明し、ご本人の納得のもとで治療を進めます。治療のゴールは薬を飲み続けることではなく、良い睡眠習慣を身につけて、最終的に薬が無くても眠れるようになることです。
中途覚醒にサプリは効く?購入前に知っておきたい注意点
ドラッグストアやインターネットで、睡眠の質を高めると謳われる様々なサプリメントを見かける機会が増えました。
手軽に試せるため関心をお持ちの方も多いでしょう。
このセクションでは、睡眠サプリメントを利用する前に知っておくべき成分の働きと、安全に利用するための注意点を解説します。
注目される成分(GABA・テアニン・グリシンなど)とその働き
睡眠関連のサプリメントによく含まれる代表的な成分には、以下のようなものがあります。
- GABA(ギャバ)
アミノ酸の一種で、脳内の興奮を鎮め、リラックスさせる働きがあるとされる神経伝達物質です。ストレスの緩和や睡眠の質の向上をサポートすると考えられています。 - L-テアニン
緑茶に含まれる旨味成分の一種です。GABAと同様にリラックス効果やストレス軽減効果が報告されており、起床時の爽快感や睡眠の質の改善に役立つとされています。 - グリシン
アミノ酸の一種で、深部体温を下げる作用をサポートすることで、スムーズな入眠と深い睡眠をもたらす効果が期待されています。
これらの成分は、一部の小規模な研究で睡眠への良い影響が示唆されていますが、科学的根拠はまだ限定的であり、その効果には個人差が大きいのが実情です。
確立された治療法(認知行動療法や医薬品など)とは根拠の強さが異なる点を理解しておく必要があります。
サプリメントはあくまで「食品」。医薬品との違い
最も重要な点は、サプリメントは治療を目的とした「医薬品」ではなく、健康維持を補助するための「食品」であるということです。
医薬品は、厳しい臨床試験を経て、有効性と安全性が国によって承認されています。
一方、サプリメントはそうした厳密な審査は義務付けられていません。
したがって、サプリメントだけで中途覚醒という「症状」を治療することはできません。
あくまで、生活習慣の改善などを基本とした上で、補助的に利用するものと理解しておくことが大切です。
選ぶ前に必ず医師や薬剤師に相談を
もしサプリメントの利用を検討するなら、自己判断で購入する前に、必ずかかりつけの医師や薬剤師に相談してください。
現在治療中の病気があったり、何らかの薬を服用していたりする場合、サプリメントの成分が薬の効果に影響を与えたり、予期せぬ副作用を引き起こしたりする可能性があるからです。
専門家に相談することで、ご自身の健康状態に合った適切なアドバイスを受けることができます。
尾内医師 (精神科専門医) のコメント
サプリメントの中には、特定の薬との飲み合わせが悪く、効果を強めすぎたり弱めすぎたりするものもあります。特に、すでに何らかの治療を受けている方は、自己判断で摂取を始めるのは非常に危険です。安全のためにも、利用を考えている製品があれば、そのパッケージを持参して、必ずかかりつけの医師や薬剤師に相談してください。
中途覚醒に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、中途覚醒に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式で簡潔にお答えします。
Q. 毎日、夜中の2時や3時など決まった時間に目が覚めるのはなぜ?
A. それにはいくつかの理由が考えられます。一つは、睡眠サイクルの関係です。
人の睡眠は、浅い「レム睡眠」と深い「ノンレム睡眠」が約90分の周期で繰り返されており、眠りが浅くなるタイミングで目が覚めやすくなります。
もう一つは、ストレスホルモンであるコルチゾールの影響です。
コルチゾールは早朝に向けて分泌量が増えるため、ストレスなどで分泌リズムが乱れると、夜中に目が覚める原因となることがあります。
Q. 中途覚醒は気にしない方がいいのでしょうか?
A. 気にしすぎることが、かえって「眠らなければ」というプレッシャーになり、症状を悪化させることもあります。
しかし、日中の活動に支障が出ている場合は、無視すべきではありません。
集中力の低下や強い眠気、気分の落ち込みなどを感じるなら、それは身体からのSOSサインです。
専門家への相談を検討しましょう。
Q. 20代、40代、50代と年代によって原因は変わりますか?
A. 年代ごとで原因の傾向は変わることがあります。
20代や30代では、仕事のストレスや不規則な生活習慣が主な原因であることが多いです。
40代、50代になると、加齢による睡眠構造の変化(深い睡眠が減る)、ホルモンバランスの変化(更年期)、睡眠時無呼吸症候群や夜間頻尿といった身体的な要因の割合が増加する傾向にあります。
Q. いびきがひどいと言われます。中途覚醒と関係ありますか?
A. はい、密接な関係がある可能性があります。
大きないびき、特にいびきが途中で止まり、その後大きな呼吸と共に再開するような場合は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が強く疑われます。
この病気は、睡眠中に無意識のうちに何度も覚醒を引き起こすため、中途覚醒の直接的な原因となります。
放置すると生活習慣病のリスクも高まるため、早めに呼吸器内科や睡眠外来を受診してください。
まとめ:質の高い睡眠を取り戻し、最高のパフォーマンスを発揮しましょう
本記事では、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」について、その原因からご自身でできる対策、そして専門的な治療法までを網羅的に解説しました。
最後に、あなたが質の高い睡眠を取り戻すためのアクションプランをまとめます。
中途覚醒 改善アクションプラン
ステップ | やること |
---|---|
Step1: 現状把握 | 自分の症状が中途覚醒か確認し、生活習慣をチェックする |
Step2: セルフケア実践 | 「7つのセルフケア」をまずは2週間試してみる |
Step3: 効果測定 | 症状が改善しない、または悪化する場合は「受診の目安」を確認する |
Step4: 専門家へ相談 | 不安や疑問があれば、一人で抱え込まず専門の医療機関に相談する |
中途覚醒は、日中のパフォーマンスを低下させ、心身の健康を損なう厄介な症状ですが、決して改善できないものではありません。
正しい知識を身につけ、適切な対策を講じることで、質の高い睡眠を取り戻すことは十分に可能です。
尾内医師 (精神科専門医) からのメッセージ
睡眠は、日中の活動の質を決める大切な土台です。夜中に目が覚めてしまう辛いお気持ちは、よく分かります。でも、正しい知識と対策で、その悩みは解決できます。決して一人で悩まず、ぜひ私たち専門家を頼ってください。あなたが再び朝までぐっすり眠れるよう、全力でサポートします。
参考文献リスト
- 健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省) 睡眠に関する最新の公的ガイドライン。成人、高齢者、こども世代別の推奨事項がまとめられています。
- e-ヘルスネット「不眠症」(厚生労働省) 不眠症の定義、種類(入眠障害、中途覚醒など)、原因、診断基準について網羅的に解説されています 。
- 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン(日本睡眠学会) 厚生労働科学研究費補助金事業として作成された、専門家向けの睡眠薬治療に関する詳細なガイドラインです 。
- e-ヘルスネット「睡眠時無呼吸症候群 / SAS」(厚生労働省) 中途覚醒の重要な原因の一つである睡眠時無呼吸症候群の定義やリスクについて解説しています 。
- e-ヘルスネット「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」(厚生労働省) 中途覚醒を引き起こすもう一つの代表的な疾患、むずむず脚症候群の症状や特徴について説明しています 。
- e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」(厚生労働省) カフェインやアルコール、喫煙といった生活習慣が睡眠に与える影響について科学的知見をまとめています 。
- 睡眠障害の診断・治療に携わる専門職のための研修マニュアル(厚生労働省) 医療専門家向けに、睡眠衛生指導や治療の進め方について詳細に記載された資料です 。
- 健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について(消費者庁) サプリメントなどの健康食品と医薬品との法的な違いや、広告表示のルールについて定めた公的文書です 。
- BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(日本老年医学会) 高齢者への睡眠薬使用における安全性や注意点について、専門的な見地からまとめられたガイドラインです 。
- e-ヘルスネット「アセトアルデヒド」(厚生労働省) 寝酒が睡眠の質を低下させるメカニズムの鍵となる、アセトアルデヒドについて解説しています 。