
この記事の監修者
学歴・職歴(要点を表示)
学歴
- 郁文館高等学校(平成3年4月〜平成6年3月)
- 聖マリアンナ医科大学 医学部医学科(平成6年4月〜平成12年3月)
職歴
- 東京大学医学部附属病院 精神神経科(平成12年4月〜平成13年5月)
- 針生ヶ丘病院 精神科(平成13年6月〜平成15年5月)
- 初石病院 精神科(平成15年6月〜平成17年5月)
- 手賀沼病院 精神科(平成17年6月〜平成18年12月)
- 葛飾橋病院 理事長(平成19年1月〜現在)
監修範囲
本記事のうち、精神科医の観点が関与する記述(EDに関連する心理的側面・受診の不安軽減・受診行動に関する助言等)について、事実関係と表現の妥当性を確認しました。医学的一般情報であり、特定の診断・治療の保証を行うものではありません。
- 利益相反:申告すべき利益相反はありません。
- 最終更新:
仕事のプレッシャーや考え事で、ベッドに入ってもなかなか寝付けない…。
夜中に何度も目が覚めてしまい、翌朝の倦怠感が抜けない…。
多くのビジネスパーソンが抱えるそんな不眠の悩みは、薬に頼る前に、ご自身の力で改善できる可能性があります。
この記事では、精神科医の尾内隆志先生の監修のもと、心身の緊張を和らげ、自然で深いリラックス状態へ導く安眠のツボを厳選してご紹介します。
東洋医学の知恵であるツボ(経穴(けいけつ))と、その背景にある医学的なメカニズムを理解することで、より効果的なセルフケアを実践できます。
この記事を読めば、以下の点が明確になります。
2.あなたの症状別(寝つきが悪い・中途覚醒など)に効果的なツボの位置と押し方
3.精神科医が教える、ツボ押しを試しても改善しない場合の適切な対処法
今夜からすぐに実践できる具体的な方法を解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
なぜ?ストレスで眠れなくなる心と体のメカニズム
「疲れているはずなのに、なぜか眠れない…」その原因は、多くの場合自律神経のバランスの乱れにあります。
このセクションでは、不眠の根本原因である心と体のメカニズムについて、医学的な観点から分かりやすく解説します。
なぜツボ押しが効果的なのか、その理由を理解することで、セルフケアへの納得感も深まるはずです。
緊張モードの「交感神経」とリラックスモードの「副交感神経」
私たちの体には、自分の意志とは関係なく内臓の働きや血流、呼吸などをコントロールしている「自律神経」というシステムがあります。
自律神経は、車のアクセルとブレーキのように、正反対の働きをする二つの神経から成り立っています。
- 交感神経(こうかんしんけい): アクセルの役割を果たし、心身を活動・緊張・興奮モードにします。日中の仕事中や、プレッシャーを感じる場面で活発になります。心拍数を上げ、血管を収縮させて血圧を上昇させ、体をすぐに行動できる状態に保ちます。
- 副交感神経(ふくこうかんしんけい): ブレーキの役割を担い、心身を休息・リラックス・回復モードにします。食事中や睡眠中など、心身を休ませる場面で優位になります。心拍数を落ち着かせ、血管を広げて血圧を下げ、胃腸の働きを活発にして消化を促します。
健康な状態では、このアクセルとブレーキがシーソーのようにバランスを取りながら、状況に応じて自動的に切り替わっています。
日中は交感神経が優位になって活動し、夜になると自然に副交感神経が優位になり、心身がリラックスして眠りにつく、というのが理想的なリズムです。
ストレスが自律神経のバランスを乱し、不眠を引き起こす
しかし、現代社会ではこのバランスが崩れがちです。
特に、中間管理職として働く30代〜40代の方は、仕事のプレッシャー、長時間にわたるPC作業、複雑な人間関係など、様々なストレスに晒されています。
このような慢性的なストレス状態が続くと、夜になっても交感神経、つまりアクセルが踏まれたままの状態になってしまいます。
心と体は常に緊張・興奮モードにあり、ベッドに入っても頭の中では仕事のことがぐるぐると巡り、心拍数も下がらず、体がリラックスできません。
これが「疲れているのに眠れない」という状態の正体です。
さらに、スマートフォンやPCから発せられるブルーライトも、交感神経を刺激し、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑制することが知られています。
就寝前のスマホチェックが習慣になっている方は、自ら眠りを遠ざけている可能性があるのです。
尾内医師 (精神科専門医) の現場からの視点
臨床の現場でも、多忙なビジネスパーソンがプレッシャーから交感神経が過剰に優位になり、不眠に悩むケースは非常に多いです。ご本人は『休まなければ』と焦っているのですが、体は常に臨戦態勢のまま。眠るためには、このガチガチになった心身を意識的にリラックスモードに切り替えるための『スイッチ』が必要になります。
ツボ押しがリラックスのスイッチになる理由
では、どうすればこの「スイッチ」をうまく切り替えられるのでしょうか。
そこで有効なのが、古くから伝わるツボ押しです。
東洋医学では、全身に「気血(きけつ)」という生命エネルギーが流れるルート(経絡)があり、その要所要所にツボ(経穴)が存在すると考えられています。
ツボを適切に刺激することで、気血の流れが整い、体の不調が改善されるというのが基本的な考え方です。
これを現代医学的に解釈すると、ツボ押しによる「心地よい圧の刺激」が皮膚や筋肉の感覚神経を通じて脳に伝わり、自律神経の中枢に働きかけることで副交感神経を優位にする、というメカニズムが有力な仮説として研究されています。
特に、手や足の末端には多くの神経が集中しており、これらの部位を優しく刺激することは、高ぶった神経を鎮め、全身の血行を促進する上で非常に効果的です。
ツボ押しは、薬のような強制力はありませんが、自分自身の力で心と体をリラックスさせ、自然な眠りへと導くための、安全で手軽なセルフケア手法なのです。
まずはココから!即効性が期待できる安眠のツボ BEST5
不眠のメカニズムをご理解いただいたところで、早速今夜から試せる、特に効果が高いとされる5つの安眠ツボをご紹介します。
これらのツボは、見つけやすく押しやすい上に、リラックス効果を実感しやすいのが特徴です。
「たくさんあって覚えられない」という方は、まずこの5つから始めてみてください。

【手のひら】労宮(ろうきゅう):高ぶった神経を鎮める
労宮は、心と繋がりの深い経絡にあり、心の疲労や緊張を和らげる効果が期待できるツボです。
プレゼン前や大事な会議の前など、緊張でドキドキする際に押すと気持ちが落ち着くとも言われています。
- 場所: 手のひらのほぼ中央。軽く拳を握ったときに、中指と薬指の先端が当たる中間あたりにあります。
- 押し方: 反対の手の親指を労宮に当て、残りの指で手の甲を支えるように持ちます。
「イタ気持ちいい」と感じる強さで、ゆっくりと5秒かけて圧を加え、5秒かけてゆっくり離します。
これを5〜10回繰り返しましょう。深呼吸しながら行うと、よりリラックス効果が高まります。
【手首】神門(しんもん):心の緊張を和らげる
その名の通り「神の門」、つまり精神の入り口を意味する神門は、精神的な不調に幅広く効果があるとされる重要なツボです。
不安やイライラを鎮める効果が伝統的に知られており、近年の研究では自律神経のバランスを整える可能性も示唆されています。
寝る前に考え事をしてしまう方に特におすすめです。
- 場所: 手首の内側、横じわの上。小指側の少し窪んだ、筋と骨の間にあります。
- 押し方: 反対の手の親指の先で、くぼみに優しく押し込むように刺激します。
グリグリと強く押すのではなく、じんわりと圧をかけるのがポイントです。
こちらも5秒押して5秒離すリズムで、10回ほど繰り返してください。
【頭のてっぺん】百会(ひゃくえ):自律神経を整える
百会は「百の会う」と書くように、多くの経絡が交わる頭のてっぺんにある万能ツボです。
全身の気血の流れを整え、自律神経のバランスを正常な状態に戻す働きがあります。
頭が冴えて眠れない時や、頭痛、眼精疲労がある時にも効果的です。
- 場所: 頭頂部のほぼ中央。両耳の先端を結んだ線と、顔の中心線(眉間から鼻を通る線)が交差する点にあります。
少しへこんでいるので、指で探ると分かりやすいです。 - 押し方: 両手の中指を重ねて百会に当て、頭の中心に向かって心地よい強さで垂直に押します。
5秒かけてゆっくり押し、5秒かけて離すのを10回程度繰り返します。
【足の裏】失眠(しつみん):その名の通り不眠の特効ツボ
失眠は、その名の通り「失った眠りを取り戻す」という意味を持つ、古くから不眠改善に用いられてきた伝統的な経験穴(けいけんけつ)です。
特に、足が冷えて寝付けない方や、考え事で頭に血がのぼっている(のぼせ)状態の方におすすめ。
上半身に集まったエネルギーを足元に下げる効果があるとされています。
- 場所: 足の裏、かかとの中央の少し膨らんだ部分にあります。
- 押し方: ベッドや床に座り、片方の足首を反対の太ももに乗せます。
両手の親指を重ねて失眠に当て、体重をかけるようにしてゆっくりと圧を加えます。
少し強めに、じんわりと響くような感覚があればOKです。
眠れない夜に布団の中で押すのも良いでしょう。
【足首】三陰交(さんいんこう):全身の血の巡りを改善
三陰交は、3つの主要な経絡が交わる場所にあることから名付けられた、特に女性にとって重要なツボとして知られています。
全身の血の巡りを良くし、冷えを改善する効果が高く、生理痛や更年期障害など婦人科系の不調全般に用いられます。
血行が改善されることで、心身がリラックスし、睡眠の質を高めることに繋がります。
- 場所: 内くるぶしの最も高い点から、指幅4本分ほど上に上がった、すねの骨の際にあります。
押すと少し痛みを感じるかもしれません。 - 押し方: 親指をツボに当て、骨に向かって押し込むように刺激します。
冷えを感じる方は、ここにお灸をしたり、ドライヤーの温風を当てて温めたりするのも効果的です。
三陰交は子宮の収縮を促す作用があるため、妊娠中の方(特に安定期に入る前)はこのツボへの強い刺激は避けてください。
【お悩み別】あなたの不眠タイプに効くツボは?
一口に不眠と言っても、その悩みは人それぞれです。
このセクションでは、「寝つきが悪い」「夜中に目が覚める」「体の凝りが原因で眠れない」といった、具体的なお悩みタイプ別に効果的なツボを深掘りしてご紹介します。ご自身の状態に合わせて、最適なツボを見つけてみてください。
「ベッドに入っても目が冴えてしまう…」寝つきが悪いタイプ
いわゆる「入眠障害」タイプの方には、興奮した神経を鎮め、心身をスムーズにリラックスモードへ切り替えるツボがおすすめです。
- 内関(ないかん):
- 効果: 乗り物酔いのツボとしても有名ですが、精神を安定させる効果が伝統的に知られています。
近年の研究では、このツボへの刺激が副交感神経の活動を高める可能性も報告されており、不安感や緊張からくる動悸を鎮め、スムーズな入眠をサポートします。
不安感や緊張からくる動悸を鎮め、スムーズな入眠をサポートします。 - 場所: 手首の内側の横じわの中央から、指3本分ほど肘側に行ったところにあります。
2本の太い筋の間に位置します。 - 押し方: 反対の手の親指で、筋の間に指を少し沈み込ませるように、じんわりと圧をかけましょう。
- 効果: 乗り物酔いのツボとしても有名ですが、精神を安定させる効果が伝統的に知られています。
- 完骨(かんこつ):
- 効果: 首周りの血行を促進し、後頭部から首筋にかけての緊張をほぐすツボです。
PC作業などでガチガチになった首をリラックスさせ、頭部の興奮を鎮めます。 - 場所: 耳の後ろにある、出っ張った骨(乳様突起)の下の、後方のくぼみにあります。
- 押し方: 両手の親指を左右の完骨に当て、残りの指で頭を支えるようにします。
頭の重みを利用しながら、少し上を向くようにして、親指でゆっくりと押し上げます。
- 効果: 首周りの血行を促進し、後頭部から首筋にかけての緊張をほぐすツボです。
- 翳風(えいふう):
- 効果: 耳周りの血流を改善し、自律神経のバランスを整える働きがあります。
特に、周囲の音が気になって眠れない時や、耳鳴りがある方にも試していただきたいツボです。 - 場所: 耳たぶの後ろ側、あごの骨との間のくぼみにあります。
口を少し開けると、くぼみが分かりやすくなります。 - 押し方: 人差し指か中指の先で、優しく押し上げるように刺激します。
3秒押して3秒離す、リズミカルな刺激も心地よいでしょう。
- 効果: 耳周りの血流を改善し、自律神経のバランスを整える働きがあります。
「夜中に何度も目が覚めてしまう…」中途覚醒タイプ
「中途覚醒」タイプの方は、睡眠の質が浅くなっている可能性があります。
体を芯から温め、エネルギーを整えることで、深く落ち着いた眠りを維持しやすくなるツボが効果的です。
- 湧泉(ゆうせん):
- 効果: 「泉が湧く」という名前の通り、生命エネルギー(気)が湧き出る場所とされ、心身の疲労回復に絶大な効果を発揮します。
体全体のエネルギーバランスを整え、深く落ち着いた眠りへと誘います。 - 場所: 足の裏、土踏まずのやや上で、足の指を曲げたときに最もくぼむ場所にあります。
- 押し方: 両手の親指を重ねて、息を吐きながらゆっくりと圧をかけます。
ゴルフボールなどを足裏で転がして刺激するのも良い方法です。
- 効果: 「泉が湧く」という名前の通り、生命エネルギー(気)が湧き出る場所とされ、心身の疲労回復に絶大な効果を発揮します。
- 照海(しょうかい):
- 効果: 体内の水分代謝やホルモンバランスを整える働きがあるツボです。
特に、加齢による不眠や、夜間のトイレが近いことで目が覚めてしまう方に効果が期待できます。 - 場所: 内くるぶしの真下、指1本分下がったところのくぼみにあります。
- 押し方: 親指の腹で優しく、じんわりと温めるように押さえます。
- 効果: 体内の水分代謝やホルモンバランスを整える働きがあるツボです。
- 太谿(たいけい):
- 効果: 体の根本的なエネルギーを補い、アンチエイジングにも効果があるとされる重要なツボです。
慢性的な疲労や、体力が落ちている時の不眠に働きかけ、睡眠の質そのものを高めてくれます。 - 場所: 内くるぶしとアキレス腱の間のくぼみにあります。
- 押し方: 親指でアキレス腱側に押し込むように、脈を感じるくらいの強さで刺激します。
- 効果: 体の根本的なエネルギーを補い、アンチエイジングにも効果があるとされる重要なツボです。
尾内医師 (精神科専門医) からのアドバイス
夜中に目が覚めてしまうと、『また眠れなかった』と焦りを感じがちですよね。その気持ちはよく分かります。ですが、その焦りこそが交感神経を刺激し、再入眠を妨げる原因になります。そんな時は、まず『眠れなくても大丈夫』と心の中で唱え、呼吸を整えながら、足のツボをゆっくり押してみてください。眠りへの焦点をそらすだけでも、心身がリラックスして効果的ですよ。
「日中のPC作業でガチガチ…」首・肩こりからくる不眠タイプ
体の特定部位の緊張が、全身のリラックスを妨げていることも少なくありません。
特に首や肩の凝りは、脳への血流を悪化させ、不眠の大きな原因となります。
- 風池(ふうち):
- 効果: 後頭部の血行を促進し、頭痛や眼精疲労、鼻づまりにも効果があるとされるツボです。
長時間同じ姿勢でいた後の、頭が重く感じるような不眠に特に有効です。 - 場所: 首の後ろ、髪の生え際あたり。首の中心にある太い筋肉(僧帽筋)の外側にあるくぼみです。
- 押し方: 両手の親指を左右の風池に当て、残りの指で頭を抱えるように持ちます。
息を吐きながら、頭の中心に向かってゆっくりと押し上げましょう。
- 効果: 後頭部の血行を促進し、頭痛や眼精疲労、鼻づまりにも効果があるとされるツボです。
- 肩井(けんせい):
- 効果: 肩こりの代表的なツボで、肩周りの筋肉の緊張を直接的にほぐす効果があります。
滞っていた気血の流れをスムーズにし、上半身のリラックスを促します。 - 場所: 首の付け根と、肩の先端を結んだ線のちょうど真ん中あたり。
指で押すと、ズーンと響くような感覚があります。 - 押し方: 反対の手の中指と人差し指で、下に押し込むように、少し強めに刺激します。
- 効果: 肩こりの代表的なツボで、肩周りの筋肉の緊張を直接的にほぐす効果があります。
- 天柱(てんちゅう):
- 効果: 「天を支える柱」という意味の通り、頭を支える首筋の張りを和らげる重要なツボです。
自律神経の働きを整え、精神的なストレス緩和にも繋がります。 - 場所: 首の後ろ、中央の髪の生え際にある2本の太い筋肉の外側のくぼみ。
風池の少し内側にあります。 - 押し方: 風池と同様に、両手の親指を当てて頭を支えながら、頭の中心に向かって押し上げます。
- 効果: 「天を支える柱」という意味の通り、頭を支える首筋の張りを和らげる重要なツボです。
臨床報告によると、長時間のデスクワークで頭が緊張している際に、後頭部の「風池」や「天柱」を心地よい強さで刺激すると、頭が軽くなりリラックスしやすくなるというケースが多くみられます。お仕事の合間に試すのもおすすめです。
【部位別】全身の安眠ツボ大全
これまでに紹介したツボ以外にも、安眠に繋がるツボは全身に数多く存在します。
このセクションでは、より網羅的に学びたいという方のために、「手・腕」「足・ふくらはぎ」「耳」「頭・顔」の部位別に、代表的なツボを一覧でご紹介します。日々の体調に合わせて、色々なツボを試してみてください。
手・腕にあるツボ
手や腕は、オフィスでも手軽に押せるのが魅力です。
- 労宮(ろうきゅう): 心の緊張を和らげる。手のひらの中央。
- 神門(しんもん): 精神を安定させる。手首の横じわ、小指側のくぼみ。
- 内関(ないかん): 不安や動悸を鎮める。手首の横じわから指3本分肘側。
- 合谷(ごうこく): 万能ツボとして有名。自律神経を整え、頭痛や肩こりにも。手の甲、親指と人差し指の骨が交わる手前のくぼみ。
(※妊娠中の方は強い刺激を避けてください)
足・ふくらはぎにあるツボ
足は「第二の心臓」とも呼ばれ、全身の血行に大きく影響します。
- 失眠(しつみん): 不眠の特効ツボ。かかとの中央。
- 湧泉(ゆうせん): 疲労回復とエネルギー補給。足裏、指を曲げたくぼみ。
- 三陰交(さんいんこう): 血行促進、冷え改善。内くるぶしから指4本分上。
- 照海(しょうかい): ホルモンバランスを整える。内くるぶしの真下。
- 太谿(たいけい): 根本的なエネルギーを補う。内くるぶしとアキレス腱の間。
- 足三里(あしさんり): 胃腸の調子を整え、体力をつける。膝のお皿の外側にあるくぼみから指4本分下。
耳にあるツボ
耳には全身のツボが集中していると言われ、「耳つぼ療法」としても知られています。
- 神門(しんもん): 耳の上部のY字軟骨のくぼみの間。精神を安定させ、ストレスを緩和します。
- 心(しん): 耳の中央にある大きな軟骨のくぼみ(耳甲介腔)の中心。動悸や不安を鎮めます。
- 皮質下(ひしつか): 耳たぶの内側、軟骨との境目あたり。大脳の興奮を抑える効果があります。
頭・顔にあるツボ
頭部や顔のツボは、思考をクリアにし、眼精疲労を和らげる効果が高いです。
- 百会(ひゃくえ): 自律神経を整える万能ツボ。頭頂部。
- 風池(ふうち): 後頭部の血行促進。首の後ろ、髪の生え際のくぼみ。
- 天柱(てんちゅう): 首筋の張りを和らげる。風池のやや内側。
- 印堂(いんどう): 眉間の中心。眉間のしわを寄せる癖がある方に。リラックス効果が高く、鼻づまりにも。
- 太陽(たいよう): こめかみのくぼみ。眼精疲労や頭痛を和らげます。
効果を最大化する、正しいツボ押しの基本
ツボの場所が分かったら、次は「どう押すか」が重要になります。
自己流でやみくもに押しても、十分な効果は得られません。このセクションでは、ツボ押しの効果を最大限に引き出すための、4つの基本ルールを解説します。ぜひマスターして、日々のセルフケアに取り入れてください。
押す強さは「イタ気持ちいい」が目安
ツボ押しの強さは、弱すぎても刺激が届かず、強すぎても筋肉が緊張して逆効果になってしまいます。
最適なのは、押したときに「痛いけれど、心地よい」「ズーンと響くような感じがする」と感じる、「イタ気持ちいい」強さです。
ご自身の体と対話しながら、最適な圧を探してみてください。
日によって心地よい強さは変わることもあります。特に、初めて押すツボや、凝っていると感じる場所は、優しめの圧から始めるようにしましょう。
1回5秒、ゆっくり圧をかけて離す
ツボを押すときは、リズミカルに連打するのではなく、持続的な圧を加えることが基本です。
息を吐きながら5秒かけてゆっくりと圧を深めていき、最も圧がかかった状態で少し止め、今度は息を吸いながら5秒かけてゆっくりと力を抜いていきます。
この「ゆっくり押して、ゆっくり離す」というリズムが、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせる上で非常に重要です。1つのツボにつき、5〜10回程度繰り返すのが目安です。
深い呼吸を意識しながら行う
ツボ押しを行う際は、必ず深い呼吸を意識してください。私たちは緊張している時、無意識に呼吸が浅くなっています。
ツボ押しと深呼吸を組み合わせることで、相乗効果が期待できます。
基本の呼吸法:
- 鼻からゆっくりと息を吸い込み、お腹を膨らませます。
- ツボを押しながら、口からゆっくりと息を吐き出します。
吸うときの倍くらいの時間をかけるイメージで、長く吐き切ります。
この呼吸を繰り返すことで、自然と副交感神経が優位になり、血圧や心拍数が落ち着いてきます。
おすすめのタイミングは「入浴後」と「就寝前」
ツボ押しはいつ行っても構いませんが、特におすすめなのが血行が良くなっている入浴後と、リラックスモードに入りたい就寝前です。
入浴後の温まった体は筋肉がほぐれており、ツボ押しの効果がより深く浸透しやすくなります。
また、就寝前にベッドの上でツボ押しを習慣にすることで、「これから眠るんだ」という入眠儀式(スリープセレモニー)となり、心と体に眠りのスイッチが入るきっかけにもなります。
尾内医師 (精神科専門医) からの推奨
ツボ押しは、何かを治す『治療』と気負うよりも、心身をリラックスさせるための心地よい『習慣』と捉えるのが良いでしょう。特に、忙しい一日を終えた就寝前のリラックスタイムに、スマートフォンを少し遠くに置いて、自分の体に意識を向ける時間を作ることは、精神医学的にも非常に良い睡眠習慣と言えます。そのツールとして、ツボ押しは大変優れています。
【実践編】今夜から始める!5分間の快眠ツボ押しルーティン
知識として知っているだけでは、なかなか習慣化は難しいものです。
そこで、これまでご紹介したツボの中から、特に入眠に効果的なものを組み合わせた、5分間でできる「快眠ツボ押しルーティン」をご提案します。
今夜、ベッドに入ったらぜひ試してみてください。
準備: ベッドや布団の上で、あぐらなど楽な姿勢で座ります。部屋の照明を少し落とし、リラックスできる環境を整えましょう。
Step1: 手のひらの「労宮」で準備運動 (1分)
まずは、心と体の緊張をほぐす準備運動から始めましょう。
- 左手の労宮を、右手の親指でゆっくりと押します。深い呼吸を意識しながら、5回繰り返します。
- 次に、右手の労宮を、左手の親指で同様に5回押します。
- この1分間で、日中の緊張が手のひらから抜けていくのをイメージしましょう。
Step2: 手首の「神門」「内関」で心を落ち着ける (2分)
次に、精神を安定させる手首のツボを刺激し、頭の中の雑念を鎮めます。
- 左手首の神門と内関を、右手の親指と人差し指で挟むように持ちます。
- 息を吐きながら、両方のツボを同時に5秒間、心地よい圧で押します。これを5回繰り返します。
- 終わったら、手を替えて右手首も同様に行います。高ぶっていた気持ちが、すーっと静まっていくのを感じられるはずです。
Step3: 足裏の「失眠」「湧泉」で深くリラックス (2分)
最後に、足裏の強力な安眠ツボを刺激して、頭にのぼったエネルギーを足元へ下ろし、全身を深いリラックス状態に導きます。
- 左の足裏の失眠と湧泉を、両手の親指を使ってゆっくりと、体重を乗せるように押していきます。
特に気持ち良いと感じる方を重点的に、1分間ほど刺激し続けます。 - 次に、右の足裏も同様に1分間刺激します。
- 終わったら、そのままゆっくりと布団に入り、深い呼吸を続けながら眠りにつきましょう。
よくある質問(FAQ)
ここでは、ツボ押しに関して多くの方が抱く疑問について、監修の尾内医師の知見も交えながらQ&A形式でお答えします。
Q. どのくらい続けたら効果が出ますか?
A. ツボ押しの効果の現れ方には個人差があります。
押したその日の夜から「寝つきが良くなった」と感じる方もいれば、数週間続けることで「そういえば、夜中に起きることが減った」と、じわじわ効果を実感する方もいます。
大切なのは、結果を焦らず、まずは2週間、心地よい習慣として続けてみることです。
ツボ押しは薬とは異なり、体質を少しずつ良い方向へ導いていくものです。
効果が出ないからといってすぐにやめてしまうのではなく、日々のセルフケアの一環として気長に取り組んでみてください。
Q. 妊娠中に押してはいけないツボはありますか?
A. はい、あります。
妊娠中、特に安定期に入るまでは、一部のツボへの強い刺激は避けるべきとされています。
特に、三陰交(うちくるぶしの上)や合谷(手の甲の親指と人差し指の間)は、子宮の収縮を促す作用があると言われており、強い刺激は推奨されません。
ご紹介したツボの中でも、足首周りのツボは慎重になるのが良いでしょう。
妊娠中の不眠や体調不良に関しては、自己判断でツボ押しを行う前に、必ずかかりつけの産婦人科医や、妊婦への施術経験が豊富な鍼灸師に相談してください。
Q. ツボ押しで不眠が悪化することはありますか?
A. 基本的に、正しい方法で心地よいと感じる強さで行う限り、ツボ押しで不眠が悪化することは考えにくいです。
ただし、以下のようなケースでは注意が必要です。
・効果への過度な期待: 「これを押せば絶対に眠れるはずだ」と強く思い込みすぎると、眠れなかった時の焦りや不安が大きくなり、逆効果になることがあります。
あくまでリラックスするための手段と捉えましょう。
もし、ツボ押しを始めてからかえって寝付けなくなったと感じるようでしたら、一度中止して、やり方や心の持ちようを見直してみてください。
尾内医師 (精神科専門医) からの重要なメッセージ
『ツボを押せば必ず眠れる』というのは、残念ながら誤解です。ツボ押しはあくまで有効なセルフケアの一つであり、万能薬ではありません。セルフケアを2週間以上試しても改善しない、あるいは不眠が原因で日中の仕事や家事に深刻な影響を及ぼしている場合は、一人で抱え込まず、必ず精神科や心療内科といった専門の医療機関に相談してください。背景にうつ病などの他の病気が隠れている可能性もあります。専門家に相談することは、解決への一番の近道です。
まとめ & 行動喚起
今回は、精神科医監修のもと、不眠に悩む方におすすめの安眠ツボとそのメカニズム、正しい実践方法までを詳しく解説しました。
重要なのは、自律神経のバランスを整え、心身をリラックスモードに切り替えることです。
ツボ押しは、そのための安全で効果的なスイッチとなります。
最後に、安眠のためのツボ押しの要点をチェックリストにまとめました。
安眠のためのツボ押し要点チェックリスト
チェック項目 | ポイント |
---|---|
タイミング | 血行の良い入浴後や、リラックスしたい就寝前が最適。 |
強さ | 「痛い」ではなく「イタ気持ちいい」と感じる程度。 |
呼吸 | 息を吐きながら押し、吸いながら離す深い呼吸を意識する。 |
基本のツボ | まずは労宮(手のひら)、神門(手首)、失眠(足裏)から試すのがおすすめ。 |
注意点 | 2週間以上改善しない、または日常生活に支障がある場合は、専門医へ相談する。 |
今夜からできるセルフケアで、あなた本来の穏やかな眠りを取り戻しましょう。
この記事が、あなたの健やかな毎日のために、少しでもお役に立てれば幸いです。
もし、この記事で紹介した方法を試しても不眠が改善されない場合は、一人で悩まず、専門の医療機関の力を頼ってください。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. 「不眠症」
- 厚生労働省. 「こころの耳:睡眠による休養感が、こころの健康に重要です」
- 厚生労働省. 「精神保健対策:精神疾患による不眠」
- 日本睡眠学会. 「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」
- 国立精神・神経医療研究センター. 「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」
- 一般社団法人 照明学会. 「LED照明のブルーライトによるヒトの健康への影響について」
- Park, J., Sohn, Y., White, A. R., & Lee, H. (2014). The safety of acupuncture during pregnancy: a systematic review. Acupuncture in medicine, 32(3), 257-266.
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