
この記事の監修者
学歴・職歴(要点を表示)
学歴
- 郁文館高等学校(平成3年4月〜平成6年3月)
- 聖マリアンナ医科大学 医学部医学科(平成6年4月〜平成12年3月)
職歴
- 東京大学医学部附属病院 精神神経科(平成12年4月〜平成13年5月)
- 針生ヶ丘病院 精神科(平成13年6月〜平成15年5月)
- 初石病院 精神科(平成15年6月〜平成17年5月)
- 手賀沼病院 精神科(平成17年6月〜平成18年12月)
- 葛飾橋病院 理事長(平成19年1月〜現在)
監修範囲
本記事のうち、精神科医の観点が関与する記述(EDに関連する心理的側面・受診の不安軽減・受診行動に関する助言等)について、事実関係と表現の妥当性を確認しました。医学的一般情報であり、特定の診断・治療の保証を行うものではありません。
- 利益相反:申告すべき利益相反はありません。
- 最終更新:
【結論】 眠れない夜が続くのは辛いですよね。
でも、ご安心ください。病院に行く前に試せる安全な選択肢はたくさんあります。
この記事では、精神科医、精神保健指定医の尾内隆志先生監修のもと、あなたの不眠のタイプに合った市販薬・サプリ・漢方の正しい選び方から、副作用への不安を解消する安全な使い方まで、客観的な情報に基づき徹底解説します。
【この記事でわかること 3点】
2.専門家が教える、安全で効果的な製品の選び方と注意点がわかります。
3.薬だけに頼らない根本的な睡眠改善法と、専門医に相談するタイミングがわかります。
もしかして不眠?まずはあなたのタイプをセルフチェック
「最近、なんだか寝つきが悪い」
「夜中に何度も目が覚めて、朝から疲れている…」
そんな悩みを抱えていませんか? 忙しい毎日の中で、つい自分のことは後回しになりがちですが、そのサインは心と体が発する休息を求める声かもしれません。
この記事では、まずご自身の睡眠の状態を客観的に把握することから始めます。
専門的な診断ではありませんが、自分の悩みの傾向を知ることで、この後の解決策がより選びやすくなります。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
30代~40代の女性で、仕事や家庭のストレスから寝つきが悪い、途中で目が覚めるといった悩みを抱える方は臨床現場でも非常に多いです。多くの方が『これくらいは普通』『疲れているだけ』と考えがちですが、質の良い睡眠は心と体の健康に不可欠です。一時的なものと放置せず、ご自身の状態を知ることが改善への第一歩ですよ。
こんなサインはありませんか?眠りの悩みの4つのタイプ
一般的に、「不眠症」にはいくつかのタイプがあると言われています。
ご自身がどのタイプに当てはまるか、少し意識してみてください。
複数のタイプに当てはまることも珍しくありません。
入眠困難(にゅうみんこんなん) ベッドに入ってもなかなか寝つけず、30分~1時間以上目が冴えてしまう状態です。「早く寝なければ」と焦るほど、かえって頭が冴えてしまうこともあります。
中途覚醒(ちゅうとかくせい) いったん眠りについても、夜中に何度も目が覚めてしまう状態です。トイレが近いわけでもないのに目が覚め、その後なかなか寝つけずに朝を迎えてしまうケースも含まれます。
早朝覚醒(そうちょうかくせい) 自分が起きたいと思っている時間よりも2時間以上早く目が覚めてしまい、その後二度寝ができない状態です。年配の方に多いと思われがちですが、若い世代でもストレスなどを原因に起こり得ます。
熟眠障害(じゅくみんしょうがい) 睡眠時間は十分に取れているはずなのに、朝起きた時に「ぐっすり眠れた」という満足感がなく、疲れが取れていない、頭が重いといった状態です。睡眠の「量」ではなく「質」に問題があるタイプです。
なぜ眠れない?30代・40代女性に多い不眠の主な原因
なぜ、このような眠りの悩みは起きてしまうのでしょうか。
特に、責任ある仕事や家庭での役割など、多くのタスクを抱える30代・40代の女性には、特有の原因が潜んでいることがあります。
ストレスや不安による自律神経の乱れ
私たちの体は、活動的な時に優位になる「交感神経」と、リラックスしている時に優位になる「副交感神経」という2つの自律神経がバランスを取り合っています。
しかし、仕事のプレッシャーや将来への不安といったストレスが続くと、夜になっても交感神経が優位なままになり、心と体が興奮状態から抜け出せなくなってしまいます。
これが「ベッドに入っても目が冴える」原因の代表例です。
ホルモンバランスの変化
女性の体は、月経周期や年齢によってホルモンバランスが大きく変動します。
特に、月経前に眠れなくなったり、30代後半から40代にかけてのプレ更年期・更年期にさしかかると、女性ホルモン(エストロゲン)の減少が自律神経の乱れにつながり、不眠の症状が現れやすくなることが知られています。
PCやスマホのブルーライト
夜、ベッドの中でスマートフォンを見ていませんか? PCやスマホの画面が発するブルーライトは、太陽光に含まれる光と似た性質を持っています。
夜にこの光を浴びると、脳は「まだ昼間だ」と勘違いし、自然な眠りを誘うホルモンであるメラトニンの分泌を抑制してしまいます。
カフェインやアルコールの影響
コーヒーや緑茶に含まれるカフェインに覚醒作用があることはよく知られていますが、その効果は意外と長く続き、人によっては夕方以降の摂取が夜の眠りに影響することも。
また、「寝酒」としてアルコールを飲む方もいますが、アルコールは眠りを浅くし、中途覚醒の原因になることが分かっています。
市販薬・サプリ・漢方、私にはどれ?3つの選択肢を徹底比較
ご自身の睡眠の状態や原因について、少しイメージが掴めたでしょうか。
ここからは、病院に行く前に試せる3つの主要な選択肢、「市販の睡眠改善薬」「睡眠サプリメント」「漢方薬」について、それぞれの特徴を詳しく比較していきます。
このセクションは、あなたが自分に合った解決策の方向性を見つけるための、いわば「羅針盤」となる部分です。
それぞれのメリット・デメリットを正しく理解し、最適な第一歩を選びましょう。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
どの選択肢にも長所と短所があり、どれが一番良い、というものではありません。『何とかして今夜眠りたい』という即時性を求めるなら睡眠改善薬、『体質からじっくり改善したい』なら漢方薬、『まずは手軽に試したい』ならサプリメント、というように目的で使い分けるのが良いでしょう。ご自身の今の状況や、どうなりたいかを考えて選ぶことが大切です。
【早見表】市販薬・サプリ・漢方のメリット・デメリット比較
項目 | 市販の睡眠改善薬 | 睡眠サプリメント | 漢方薬 |
---|---|---|---|
分類 | 医薬品(指定第2類) | 食品(機能性表示食品など) | 医薬品(要指導・第1類~第3類) |
主な目的 | 一時的な不眠症状の緩和 | 睡眠の質向上・ストレス緩和の補助 | 体質改善を通じた不眠および随伴症状の改善 |
作用機序 | 抗ヒスタミン作用による中枢神経抑制(眠気の誘発) | 特定成分による生理機能への補助的アプローチ | 生薬の複合作用による心身のバランス調整(証の改善) |
根拠レベル | 医薬品としての有効性承認 | メーカー提出の科学的根拠に基づく機能性表示 | 伝統的使用と現代薬理研究に基づく承認 |
即効性 | 比較的高い | 穏やか(即効性はない) | 穏やか(効果発現に時間がかかる場合が多い) |
使用期間の目安 | 短期・一時的(数日まで) | 長期継続も可 | 専門家の指示に基づき、一定期間 |
主な注意点 | 連用不可、副作用(翌日の眠気等)、運転禁止、アルコール併用厳禁 | 医薬品ではない、効果に個人差が大きい、アレルギー注意 | 体質(証)との適合性、副作用の可能性、専門家への相談必須 |
選択肢① 市販の睡眠改善薬とは? – 病院の睡眠薬との違い
ドラッグストアなどで購入できる睡眠改善薬は、「寝つきが悪い」「眠りが浅い」といった一時的な不眠症状を緩和するための医薬品(第2類医薬品または指定第2類医薬品)です。
一番のポイントは、病院で処方される睡眠薬(睡眠導入剤)とは全く異なるものだということです。
主成分として使われているのは、多くが「抗ヒスタミン薬」。
これは、アレルギー症状(鼻水、くしゃみなど)を抑える薬の成分で、その副作用である「眠気」を利用しています。
脳の活動を活発にするヒスタミンという物質の働きをブロックすることで、脳をリラックス状態に導き、眠気を誘うのです。
あくまで作用は穏やかで、「一時的な不眠」の緩和が目的です。
慢性的な不眠に使用するものではない、という点をしっかり理解しておくことが重要です。
選択肢② 睡眠サプリメントとは? – 機能性表示食品の役割
サプリメントは、医薬品ではなく「食品」に分類されます。
そのため、病気の治療を目的とすることはできません。
サプリメントの役割は、睡眠に良いとされる成分を補うことで、睡眠の質を高める手助けをしたり、リラックスをサポートしたりすることにあります。
近年では、「機能性表示食品」として、科学的根拠に基づいて「睡眠の質を高める」「一時的なストレスを緩和する」といった機能が表示された製品も多く登場しています。
主な成分としては、リラックス効果で知られるL-テアニンやGABA(ギャバ)、深い眠りをサポートするグリシンなどが有名です。
医薬品のような即効性はありませんが、手軽に始められ、生活習慣の一部として取り入れやすいのが大きなメリットと言えるでしょう。
選択肢③ 漢方薬とは? – 体質改善というアプローチ
漢方薬は、植物や鉱物などの自然由来の生薬(しょうやく)を複数組み合わせて作られた医薬品です。
西洋薬が特定の症状に対して直接アプローチするのに対し、漢方薬は不眠という症状だけでなく、その背景にある「心と体のバランスの乱れ」を根本から整えることを目的としています。
例えば、「イライラして眠れない」という人には気の巡りを整える処方を、「クヨクヨ考えてしまって眠れない」という人には心を落ち着ける処方を、というように、個々の体質(これを漢方では「証(しょう)」と呼びます)に合わせて最適な漢方薬が選ばれます。
効果を実感するまでには少し時間がかかることが多いですが、体質に合えば、不眠だけでなく冷えや疲労感といった他の不調も一緒に改善が期待できるのが大きな特徴です。
ただし、自己判断で選ぶのは難しいため、医師や薬剤師といった専門家への相談が不可欠です。
【市販薬】の選び方とおすすめ成分 – 一時的な不眠に
「大事なプレゼンの前夜、緊張して眠れそうにない」
「旅行先で環境が変わり、寝つけない」
そんな、一時的な不眠に悩む際の心強い味方が、市販の睡眠改善薬です。
ここでは、その正しい選び方と、安全に使うためのポイントを詳しく解説します。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
市販の睡眠改善薬は、病院で処方される睡眠導入剤とは全く異なるものです。その点をしっかり理解してください。効果があるからといって漫然と使い続けず、パッケージに記載された用法・用量を必ず守ることが鉄則です。2~3回使用しても改善しない場合は、それは市販薬で対応できる範囲を超えているサインかもしれません。速やかに専門家へ相談しましょう。
主な有効成分「ジフェンヒドラミン塩酸塩」の働きと注意点
現在、日本で販売されている市販の睡眠改善薬のほとんどは、「ジフェンヒドラミン塩酸塩」を有効成分としています。
この成分は、アレルギーの原因となるヒスタミンという体内物質の働きを抑える「抗ヒスタミン薬」の一種です。
ヒスタミンには脳を覚醒させる働きもあるため、その作用をブロックすることで、自然な眠気を誘うというのが睡眠改善薬の仕組みです。
花粉症の薬を飲むと眠くなるのと同じ原理ですね。
【主な副作用】 この「眠気」という主作用は、裏を返せば副作用でもあります。効果が翌朝まで持ち越してしまうと、以下のような症状が現れることがあります。
・頭が重い感じ
・口の渇き
・めまい
また、成分の持つ抗コリン作用により、緑内障や前立腺肥大のある方は症状が悪化する可能性があるため、使用前に必ず医師や薬剤師に相談する必要があります。
これらの症状は個人差が大きいため、初めて服用する際は、翌日に車の運転や重要な仕事の予定がない日を選ぶと安心です。
こんな症状・悩みにはこの市販薬
睡眠改善薬は、基本的には同じ有効成分の製品が多いですが、剤形(錠剤、カプセル、液体など)や添加物の違いがあります。
- 寝つきが悪い時に 代表的な製品として「ドリエル」や「ネオデイ」などがあります。
これらはジフェンヒドラミン塩酸塩を主成分とし、ベッドに入ってもなかなか寝つけないといった「入眠困難」タイプの症状緩和に適しています。
カプセルタイプは、中の液体成分が素早く溶け出すよう工夫されているものもあります。 - 夜中に目が覚める時に 実は、中途覚醒に特化した市販の睡眠改善薬というものは存在しません。
ただし、アレルギー用の医薬品である「レスタミンコーワ糖衣錠」は、同じくジフェンヒドラミン塩酸塩を含んでおり、一部で睡眠改善目的に使用されることがあります。
しかし、これは本来の用途とは異なるため、必ず薬剤師に相談の上で使用を検討してください。 - ジェネリック医薬品という選択肢 「ドリエル」と同じ有効成分・同じ量のジェネリック医薬品も販売されています。
成分は同じで価格が抑えられているため、コストを重視する方は薬剤師に相談してみると良いでしょう。
市販薬を購入・使用する際の4つのチェックポイント
睡眠改善薬を安全に使用するため、以下の4つのポイントは必ず守ってください。
- 薬剤師がいる店舗や時間帯に購入し、相談する
睡眠改善薬は第2類医薬品または指定第2類医薬品に分類され、薬剤師からの情報提供が推奨されています。
ご自身の症状や、他に服用している薬がないかなどを伝え、適切なアドバイスを受けましょう。 - 他の薬(風邪薬、アレルギー薬など)との併用は避ける
総合感冒薬や鼻炎薬、乗り物酔いの薬などにも、抗ヒスタミン成分が含まれていることがあります。
これらを併用すると、成分が重複して作用が強く出すぎたり、予期せぬ副作用を招いたりする危険性があります。 - 服用後の運転や危険な作業は絶対にしない
服用後は眠気が強く現れます。
また、その効果が翌朝まで続くこともあります。
服用した日は、自動車の運転や機械の操作など、危険を伴う作業は絶対に行わないでください。 - アルコールとの併用は厳禁
アルコールと一緒に服用すると、薬の作用が強く出すぎてしまい、呼吸抑制など深刻な健康被害につながる恐れがあります。
飲酒した日は、睡眠改善薬を服用しないでください。
【サプリメント】の選び方とおすすめ成分 – 睡眠の質を高めたい
「薬を飲むほどではないけれど、睡眠の質をもう少し上げたい」
「日中のストレスを和らげて、夜はリラックスしたい」
そんな方には、生活習慣の一部として手軽に取り入れられるサプリメントが選択肢になります。
ここでは、広告やイメージに惑わされず、ご自身の目的に合ったサプリメントを論理的に選ぶための知識を解説します。
目的別・睡眠サポート成分ガイド
サプリメントを選ぶ上で最も重要なのは、「どの成分が、どのような働きをするのか」を理解することです。
代表的な成分とその役割をご紹介します。
ストレスや不安を和らげたい: GABA(ギャバ)、L-テアニン
事務的作業による一時的な精神的ストレスの緩和に役立つと報告されています。
・L-テアニン: 緑茶に含まれる旨味成分です。GABAと同様にリラックス効果が期待でき、起床時の疲労感を軽減し、睡眠の質を高める機能が報告されています。
睡眠の質(深さ)を高めたい: グリシン、ラフマ由来ヒペロシド
・ラフマ由来ヒペロシド: ラフマという植物の葉から抽出される成分で、睡眠の質(眠りの深さ)の向上に役立つことが報告されています。
すっきりした目覚めをサポート: セリン、トリプトファン
・トリプトファン: 体内で合成できない必須アミノ酸で、脳内でセロトニン(精神を安定させる物質)やメラトニン(眠りを誘うホルモン)の原料となります。

サプリ選びで失敗しないための3つのポイント
数多くの製品の中から、信頼できるサプリメントを選ぶためには、以下の3つのポイントを押さえましょう。
- 「機能性表示食品」を選ぶ サプリメントには、特に機能の表示が許可されていない「いわゆる健康食品」と、事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能性を表示した「機能性表示食品」があります。
後者は、安全性や機能性に関する情報が消費者庁に届け出られており、信頼性の一つの目安となります。
ただし、機能性表示食品の科学的根拠は、医薬品の承認審査とは異なる基準で評価されており、効果の体感には個人差が大きいことを理解しておくことが重要です。 - 成分の「含有量」を確認する 機能性が報告されている成分でも、十分な量が含まれていなければ期待する効果は得られません。
パッケージの裏面にある成分表示を確認し、機能性が報告されている摂取目安量を満たしているかチェックする習慣をつけましょう。 - 継続できる「価格」であるか サプリメントは、医薬品と違って即効性を期待するものではなく、一定期間継続することで体感が得られるものがほとんどです。
無理なく続けられる価格帯であることも、大切な選択基準の一つです。
信頼できるメーカーの製品例
本記事では特定の製品を推奨するランキング形式は取りませんが、上記で解説した「選び方のポイント」を満たす製品を選ぶことが重要です。
例えば、製薬会社が開発したサプリメントは、品質管理の基準が高い傾向にあります。
また、機能性表示食品のデータベースで、どのような科学的根拠で届け出がされているかを確認するのも良い方法です。
ドラッグストアの薬剤師や登録販売者に相談し、ご自身の目的(ストレス緩和か、睡眠の質の向上かなど)を伝えることで、適切な製品選びのサポートをしてもらえます。
【漢方薬】の選び方 – 専門家と見つける根本改善
「睡眠改善薬は副作用が心配」「サプリメントだけでは物足りない」「不眠だけでなく、冷えや疲れやすさも気になる」 そんな方に試していただきたいのが、漢方薬によるアプローチです。
ここでは、漢方薬がどのように不眠に働きかけるのか、そして自分に合った漢方薬の見つけ方を解説します。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
『漢方薬は自然由来だから副作用がない』と誤解されている方がいますが、そんなことはありません。漢方薬も医薬品であり、体質に合わないと、胃腸の不調などを起こすこともあります。特に、肝機能に影響を与える可能性のある処方や、他の薬との飲み合わせに注意が必要なものもあります。必ず医師や薬剤師に相談の上で服用してください。
あなたの「証(しょう)」に合った漢方とは?
漢方薬を選ぶ上で最も重要なキーワードが「証(しょう)」です。
これは、その人の体力、体質、病気の進行度などを総合的に判断したもので、漢方薬を処方する際の診断基準となります。
西洋医学では同じ「不眠」という症状でも、漢方ではその人の「証」によって処方される薬が全く異なります。
例えば、体力があり、イライラしがちな人(実証(じっしょう))と、体力がなく、クヨクヨしがちな人(虚証(きょしょう))では、アプローチの方法が変わってきます。
この「証」の見極めは非常に専門的であり、自己判断は困難です。
だからこそ、漢方薬を選ぶ際には、ご自身の体質や症状を詳しく伝え、専門家に最適な処方を選んでもらうプロセスが不可欠なのです。
それは、まるで自分だけのオーダーメイドの薬を選ぶようなものと言えるでしょう。
不眠のタイプ別・代表的な漢方薬3処方
ここでは、不眠に対してよく用いられる代表的な漢方薬を3つご紹介します。
あくまで一例であり、ご自身に合うかどうかは専門家にご相談ください。
- イライラして眠れない(気逆タイプ):
抑肝散(よくかんさん) 神経が高ぶり、イライラや怒りっぽさで目が冴えてしまうタイプの方に使われます。
気の巡りを正常にし、高ぶった神経を鎮めることで、穏やかな眠りに導きます。
歯ぎしりや、夢見が悪いといった症状がある方にも用いられます。 - 考えすぎて眠れない(心血虚タイプ):
加味帰脾湯(かみきひとう) 心配事や考え事が頭から離れず、クヨクヨして寝つけない、眠りが浅いといった方に適しています。
心身の疲労が激しく、血色が悪く、胃腸が弱い傾向がある方に用いられ、気と血を補い、心の栄養不足を改善して不安を和らげます。 - 疲れているのに眠れない(心身疲労タイプ):
酸棗仁湯(さんそうにんとう) 心身ともに疲れ切っているのに、神経は興奮して眠れない、という方に最もよく使われる処方の一つです。
体に必要な潤いを補い、熱を冷ますことで、脳の過剰な興奮を鎮め、深い眠りをもたらします。
漢方薬を始めたいと思ったら?
漢方薬に興味を持ったら、どこに相談すればよいのでしょうか。
最近では、ドラッグストアでも多くの種類の漢方薬が販売されています。
購入する際は、必ず薬剤師や登録販売者に相談しましょう。
ご自身の症状や体質を詳しく伝えることで、より合った薬を選んでもらいやすくなります。
より本格的に漢方治療を受けたい場合は、漢方を専門とする医療機関(漢方外来)を受診するのがおすすめです。
医師の診察により、保険適用の漢方薬を処方してもらうことができます。
最近では、オンラインで漢方の相談や処方を受けられるサービスも増えており、忙しい方でも利用しやすくなっています。
薬・サプリ・漢方に頼る前に知っておきたい安全性と副作用
セルフケアで不眠対策を行う上で、多くの方が最も気になるのが「安全性」と「副作用」ではないでしょうか。
このセクションでは、あなたが安心して第一歩を踏み出せるよう、注意すべき点について詳しく解説します。
正しい知識を持つことは、自分自身の体を守る上で最も大切なことです。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
副作用が心配になるお気持ちはよく分かります。ですが、用法・用量を守れば過度に怖がる必要はありません。大切なのは、自分の体に小さな変化があった時に『あれ?』と気づき、使用を中止して専門家に相談する勇気です。決して自己判断で続けたり、量を増やしたりしないでください。
注意すべき副作用と初期症状
選択肢によって注意すべき副作用は異なりますが、共通して現れる可能性のある初期症状を知っておくことが重要です。
- 翌日への眠気の持ち越し、特に市販の睡眠改善薬で最も多い副作用です。
薬の効果が翌朝まで残ってしまうことで、日中に強い眠気や倦怠感を感じることがあります。 - めまい・ふらつき これも睡眠改善薬で見られることがあります。
特に起床時に立ち上がった際に、ふらつきを感じる場合は注意が必要です。
転倒のリスクにもつながります。 - 胃腸の不快感 漢方薬で、体質に合わなかった場合に見られることがあります。
胃もたれや食欲不振、下痢などの症状が現れたら、服用を中止して相談しましょう。
妊娠中・授乳中の方、高齢者の方への注意点
妊娠中・授乳中の方、そして高齢者の方は、薬やサプリメントの服用に特に慎重になる必要があります。
- 妊娠中・授乳中の方 市販の睡眠改善薬や一部の漢方薬は、胎児や乳児に影響を与える可能性があるため、服用は原則としてできません。
サプリメントも同様に、安全性が確立されていないものがほとんどです。
自己判断での服用は絶対に避け、必ずかかりつけの産婦人科医に相談してください。 - 高齢者の方 高齢になると、薬の分解・排泄機能が低下するため、副作用が出やすくなる傾向があります。
特に、眠気やふらつきによる転倒は、骨折などの大きな事故につながる危険性があります。
睡眠改善薬の使用は慎重に検討し、まずは少量から試す、あるいはかかりつけ医に相談することが賢明です。
長期連用や依存のリスクについて
「一度使い始めたら、やめられなくなるのでは?」という不安も大きいでしょう。
依存性のリスクについて正しく理解しておきましょう。
睡眠改善薬は、あくまで一時的な不眠のためのものです。
慢性的に連用すると、体が薬の作用に慣れてしまい、効果が薄れてくることがあります(耐性)。
また、精神的な依存(薬がないと眠れないという思い込み)につながる可能性も指摘されています。
パッケージに記載されている期間(通常は1週間程度)を超えての使用は避けるべきです。
サプリメントや漢方薬には、睡眠改善薬のような身体的依存のリスクは低いと考えられています。
しかし、「これを飲まないと眠れない」という精神的な依存に陥る可能性はゼロではありません。
大切なのは、これらを「補助」として活用しつつ、後述する生活習慣の改善にも同時に取り組むことです。
薬だけに頼らない!ぐっすり眠るための5つの生活習慣
ここまで、市販薬やサプリメント、漢方薬といった選択肢について解説してきましたが、これらはあくまで睡眠をサポートするための「補助輪」です。
最終的なゴールは、薬などに頼らなくても朝までぐっすり眠れる体と生活習慣を取り戻すこと。
ここでは、今日からすぐに始められる5つの具体的なアクションプランをご紹介します。
【朝・日中】太陽の光を浴びて体内時計をリセット
私たちの体には、約24時間周期でリズムを刻む「体内時計」が備わっています。
この時計を毎朝リセットしてくれるのが「太陽の光」です。
朝起きたら、まずカーテンを開けて15分ほど自然の光を浴びる習慣をつけましょう。
これにより、眠りを誘うホルモンであるメラトニンの分泌が一旦ストップし、その約14〜16時間後に再び分泌が始まるよう、タイマーがセットされます。
日中に活動的に過ごすことも、夜の深い眠りにつながります。
【食事】睡眠の質を高める栄養素(トリプトファン、GABAなど)
食事は、睡眠の質に直接影響を与えます。
特に、幸せホルモン「セロトニン」や睡眠ホルモン「メラトニン」の原料となる「トリプトファン」は重要です。
トリプトファンは、牛乳・乳製品、大豆製品、バナナ、ナッツ類に多く含まれています。
また、発酵食品(味噌、納豆、ヨーグルトなど)に含まれるGABAも、ストレス緩和に役立ちます。
夕食は就寝の3時間前までに済ませ、消化の良いものを摂るように心がけましょう。
【運動】夕方の軽いウォーキングが効果的
日中の適度な運動は、心地よい疲労感を生み出し、夜の寝つきを良くしてくれます。
特におすすめなのが、夕方(就寝の3〜4時間前)のウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動です。
運動によって一時的に上がった体の深部体温が、夜にかけて下がっていく過程で、自然な眠気が訪れます。
激しい運動はかえって交感神経を刺激してしまうため、少し汗ばむ程度で十分です。
【入浴】就寝90分前のぬるめのお風呂でリラックス
就寝の約90分前に、38〜40℃程度のぬるめのお湯に15〜20分ほど浸かるのも非常に効果的です。
入浴によって上がった深部体温が、お風呂から上がった後に急降下することで、体が休息モードに入り、強い眠気を誘います。
熱いお湯は交感神経を刺激してしまうので逆効果。
リラックスできる香りの入浴剤などを活用するのも良いでしょう。
【寝室環境】スマホは寝室に持ち込まない
あなたの寝室は、眠るのに最適な環境になっていますか?
特に注意したいのが、就寝前のスマートフォンやPCの使用です。
ブルーライトがメラトニンの分泌を抑制することは先述の通り。
「ベッドに入ったらスマホは見ない」というルールを徹底するだけでも、寝つきは大きく改善する可能性があります。
また、部屋の照明を暖色系の間接照明にしたり、快適な温度・湿度を保ったり、リラックスできる音楽を聴いたりするのもおすすめです。
それでも改善しないなら…専門医に相談するタイミング
セルフケアを色々試してみたけれど、なかなか良くならない…。
そんな時は、一人で抱え込まずに専門家を頼る勇気も大切です。
不眠は「気合が足りない」といった精神論の問題ではなく、治療が必要な場合もある医学的な症状です。
このセクションでは、医療機関を受診すべきタイミングと、どこに相談すればよいかを具体的にお伝えします。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
精神科や心療内科と聞くと、少し敷居が高いと感じる方が多いかもしれません。ですが、眠りのことで生活に支障が出ているなら、それは専門家の助けが必要なサインです。風邪をひいたら内科に行くのと同じように、眠りの専門家がいると考えてください。一人で抱え込まず、まずは話を聞かせてもらうくらいの気持ちで気軽に相談に来てほしいですね。
受診を検討すべき5つのサイン
以下のサインが一つでも当てはまる場合は、セルフケアの限界を超えている可能性があります。
専門医への相談を強くお勧めします。
- 市販薬を2~3回使っても全く効果を感じない 一時的な不眠ではない、他の原因が隠れている可能性があります。
- 不眠の症状が2週間以上続いている 症状が慢性化し始めているサインです。
早めの対処が重要になります。 - 日中の眠気やだるさで、仕事や家事に支障が出ている 生活の質(QOL)が明らかに低下している状態は、治療を検討すべき重要な指標です。
- 気分の落ち込みや不安感が強い 不眠が、うつ病など他の心の病気のサインとして現れている可能性も考えられます。
- 眠れないこと自体が大きなストレスになっている 「今夜も眠れなかったらどうしよう」という不安が、さらに不眠を悪化させる悪循環に陥っている状態です。
何科に行けばいい?(心療内科・精神科・睡眠外来)
不眠の相談ができる診療科はいくつかあります。
それぞれの特徴を知って、ご自身に合った場所を選びましょう。
- 心療内科: ストレスが原因で体に症状(不眠、頭痛、腹痛など)が出ている場合に適しています。
カウンセリングを重視するところが多いのが特徴です。 - 精神科: 不眠に加えて、気分の落ち込みや強い不安感など、心の症状が強い場合に適しています。
- 睡眠外来: 睡眠に関する問題を専門的に扱う外来です。
睡眠時無呼吸症候群など、特殊な睡眠障害が疑われる場合にも対応できます。
どこに行けば良いか迷う場合は、まずはかかりつけの内科医に相談してみるのも一つの方法です。
病院ではどんな治療をするの?
医療機関では、まず詳しい問診を通して不眠の原因を探ります。
その上で、睡眠に関する正しい知識を学ぶ「睡眠衛生指導」や、薬物療法などが行われます。
薬物療法で使われる睡眠薬(睡眠導入剤)は、市販の睡眠改善薬とは異なり、脳のGABA受容体などに直接作用して眠りを促すものが中心です。
かつての睡眠薬に比べ、現在の主流の薬は依存性や副作用が大幅に軽減されており、医師の指導のもとで適切に使用すれば、安全に不眠を改善することができます。
過度に怖がる必要はありません。
厚生労働省の情報サイトe-ヘルスネットによると、不眠症の治療では原因の解消が基本ですが、薬物療法も行われます。
睡眠薬には、寝つきを良くしたり、夜中に目が覚めるのを減らしたりする効果があるとされています。
睡眠改善に関するよくある質問(FAQ)
ここでは、睡眠改善に関して多くの方が抱く疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q. お酒を飲むとよく眠れる気がするのですが…?
A. いわゆる「寝酒」は、睡眠にとって百害あって一利なし、と考えるべきです。
アルコールは確かに一時的に寝つきを良くする作用がありますが、分解される過程でアセトアルデヒドという覚醒作用のある物質に変わります。
これにより、眠りが浅くなったり、夜中に目が覚めたり(中途覚醒)する原因となります。
また、利尿作用によってトイレが近くなることも、睡眠を妨げる一因です。
習慣化すると、同じ量では眠れなくなり、アルコール依存症のリスクも高まります。
睡眠の質を改善したいのであれば、寝酒はやめるのが賢明です。
Q. 睡眠改善薬と睡眠サプリは併用してもいいですか?
A. 自己判断での併用は避けるべきです。
睡眠改善薬は医薬品であり、サプリメントは食品ですが、成分によっては相互に影響し合う可能性がゼロではありません。
特に、海外のサプリメントには、日本では医薬品成分として扱われるメラトニンが含まれていることもあります。
もし併用を検討する場合は、必ず医師または薬剤師に、現在使用しているサプリメントの製品名や成分を伝えて相談してください。
Q. おすすめの製品をランキングで教えてください。
A. 本記事では、あえてランキング形式でのご紹介はしておりません。
なぜなら、ここまでお読みいただいたように、不眠の原因や体質は一人ひとり全く異なり、最適な製品も人それぞれだからです。
ある人にとっては最高の製品が、あなたにとっては全く合わない、ということも十分にあり得ます。
大切なのは、ランキングの上位にある製品を試すことではなく、この記事で解説した「選び方の基準」を参考に、ご自身の症状や目的に合った選択肢を、専門家のアドバイスも聞きながら見つけていただくことです。
まとめ:あなたに合った方法で、穏やかな夜を取り戻しましょう
眠れない夜が続くと、心も体も疲弊し、「このまま朝が来なければいいのに」とさえ感じてしまうかもしれません。
しかし、これまで見てきたように、あなたの悩みを解決するための選択肢は一つではありません。
この記事では、市販の睡眠改善薬、手軽に始められるサプリメント、そして体質から見直す漢方薬という3つのアプローチを、専門家の監修のもとで詳しく解説しました。
さらに、薬だけに頼らないための生活習慣の改善法や、専門家を頼るべきタイミングについてもご理解いただけたかと思います。
尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス
眠れない夜は、心と体が休息を求めているサインかもしれません。焦らず、まずは今日ご紹介したセルフケアの中から、ご自身が『これならできそう』と思えるものを一つ試してみてください。それが、穏やかな夜を取り戻すための大切な一歩になります。そして、決して一人で抱え込まないでください。私たち専門家は、いつでもあなたの味方です。
最後に、この記事の要点をチェックリストにまとめました。
ご自身の状況を振り返り、次のアクションにつなげてください。
ぐっすり眠るための最終チェックリスト
チェック項目 | Yes/No |
---|---|
自分の不眠タイプを把握しましたか? | ☐ |
3つの選択肢(市販薬・サプリ・漢方)の違いを理解しましたか? | ☐ |
安全に使うための注意点(副作用・期間)を確認しましたか? | ☐ |
薬だけに頼らない生活習慣を一つでも試せそうですか? | ☐ |
専門医に相談すべきサインに当てはまらないか確認しましたか? | ☐ |
あなたの状況に合わせて、次の一歩を踏み出してみましょう。
- まずは生活習慣を見直したい方: → 薬だけに頼らない!ぐっすり眠るための5つの生活習慣 へ戻って、今日からできることを見つけてみましょう。
- 自分に合う漢方薬を相談したい方: → お近くの漢方薬局や漢方外来を検索してみましょう。オンライン相談も便利です。
- 2週間以上不眠が続く方: → 勇気を出して、専門の医療機関に相談してみましょう。厚生労働省の医療情報ネット(ナビイ)でお近くの心療内科・精神科を探せます。
参考文献