コラム

【精神科医監修】不眠治療のおすすめは?薬・セルフケア・認知行動療法(CBT-I)まで自分に合った治し方が見つかる

【精神科医監修】不眠治療のおすすめは?薬・セルフケア・認知行動療法(CBT-I)まで自分に合った治し方が見つかる
尾内隆志 医師の顔写真

この記事の監修者

尾内 隆志(おない たかし) Takashi Onai, M.D.
  • 資格:公益社団法人 日本精神神経学会 精神科専門医
  • 所属・役職:医療法人社団 一秀会 葛飾橋病院 理事長(院長
  • 専門分野:臨床精神科医学一般、EDに伴う心理的側面
  • 医籍登録:医師免許取得:平成12年5月(医籍登録番号:409881)
学歴・職歴(要点を表示)

学歴

  • 郁文館高等学校(平成3年4月〜平成6年3月)
  • 聖マリアンナ医科大学 医学部医学科(平成6年4月〜平成12年3月)

職歴

  • 東京大学医学部附属病院 精神神経科(平成12年4月〜平成13年5月)
  • 針生ヶ丘病院 精神科(平成13年6月〜平成15年5月)
  • 初石病院 精神科(平成15年6月〜平成17年5月)
  • 手賀沼病院 精神科(平成17年6月〜平成18年12月)
  • 葛飾橋病院 理事長(平成19年1月〜現在)

理事長/院長よりご挨拶:
昭和32年の開院以来、地域の皆様に支えられ半世紀をこえる歴史を重ねてまいりました。社会や生活スタイルの変化に伴い精神医療も大きく変化しています。私たちは優しく開かれた医療をめざし、地域に根ざした活動を推進し、患者様・ご家族に安心いただけるホスピタルづくりに尽力してまいります。

監修範囲

本記事のうち、精神科医の観点が関与する記述(EDに関連する心理的側面・受診の不安軽減・受診行動に関する助言等)について、事実関係と表現の妥当性を確認しました。医学的一般情報であり、特定の診断・治療の保証を行うものではありません。

  • 利益相反:申告すべき利益相反はありません。
  • 最終更新:

眠れない夜が続くと、日中の集中力が続かず、仕事のパフォーマンスも落ちて本当につらいですよね。

ご安心ください。

不眠症の治療には、ご自身で取り組めるセルフケアから、専門家と行う専門的な治療まで、様々な選択肢があります。

大切なのは、ご自身の状態を正しく理解し、最適な方法を見つけることです。

この記事は、精神科医の尾内隆志先生の監修のもと、編集部が最新の医学論文や診療ガイドラインを分析し、科学的根拠に基づいた不眠の治療法を網羅的に解説します。

あなたに合った改善方法を見つけ、質の良い睡眠を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。

この記事でわかること 3点

目次
  1. その症状、もしかして不眠症?まずはセルフチェックから
  2. 【今日からできる】不眠改善におすすめのセルフケア「睡眠衛生」
  3. 薬に頼らない!不眠治療の第一選択「認知行動療法(CBT-I)」とは?
  4. 睡眠薬(薬物療法)との正しい付き合い方|副作用や依存性の不安を解消
  5. どの病院・クリニックに行けばいい?専門医への相談完全ガイド
  6. 不眠治療に関するよくある質問(FAQ)
  7. まとめ:あなたに合った治療法で「眠れる自信」を取り戻そう

その症状、もしかして不眠症?まずはセルフチェックから

「最近よく眠れないけれど、これは不眠症なの?」
「ただの寝不足?」

と、ご自身の状態を客観的に判断するのは難しいものです。

このセクションでは、不眠症の基本的な定義とタイプを理解し、簡単なセルフチェックを通じて、専門家への相談が必要かどうかを見極めるための目安を提供します。

「眠れない」にも種類がある?不眠症の4つのタイプ

不眠症とは、単に睡眠時間が短い状態を指すのではありません。

 「寝つきが悪い」「夜中に目が覚める」といった睡眠の問題が週に3日以上の頻度で3ヶ月以上続き、その結果、日中に倦怠感、集中力低下、食欲不振などの不調が現れる状態を「慢性不眠症」と診断します。

不眠の症状は、主に以下の4つのタイプに分類されます。

ご自身がどれに当てはまるか、少し考えてみてください。

  • 入眠障害 床に入ってもなかなか寝付けないタイプです。
    30分~1時間以上、時にはそれ以上も眠れず、その間に不安や焦りが募ってしまうことも少なくありません。
    「眠らなければ」と考えるほど、かえって目が冴えてしまう悪循環に陥りがちです。
  • 中途覚醒 いったん眠りについても、夜中に何度も目が覚めてしまうタイプです。
    トイレが近いなどの身体的な理由がないのに、物音やわずかな光で目が覚め、その後なかなか寝付けないという特徴があります。
    加齢とともに増える傾向もあります。
  • 早朝覚醒 自分が起きようと思っている時刻より2時間以上も早く目が覚めてしまい、その後、二度寝ができないタイプです。
    もう少し眠りたいのに眠れないため、睡眠時間が不足し、日中の眠気につながります。
    高齢者や、うつ病の症状の一つとして現れることもあります。
  • 熟眠障害 睡眠時間は十分に取れているはずなのに、朝起きた時に「ぐっすり眠れた」という満足感が得られないタイプです。
    眠りが浅く、夢ばかり見ていたり、日中に疲れが残っていたりします。
    睡眠時無呼吸症候群など、他の病気が隠れている可能性も考えられます。

これらのタイプは、一つだけが現れることもあれば、複数が組み合わして現れることもあります。

ご自身の悩みがどのタイプに近いかを知ることが、原因を探り、適切な対処法を見つける第一歩となります。

【5分で完了】専門医監修・不眠症セルフチェックリスト

以下の質問を読んで、「はい」か「いいえ」で答えてみましょう。

ここ数ヶ月のあなたの状態に最も近いものを選んでください。
これは医学的な診断ではありませんが、ご自身の睡眠の状態を客観的に見るための良い手がかりになります。

質問項目はいいいえ
1. 床に入ってから寝つくまでに30分以上かかることが週に3日以上ある
2. 夜中に2回以上目が覚め、その後なかなか寝付けないことが週に3日以上ある
3. 予定の時刻より2時間以上早く目が覚めてしまうことが週に3日以上ある
4. 睡眠時間は足りているはずなのに、朝スッキリ起きられない
5. 日中に強い眠気を感じたり、ぼーっとしたりすることがある
6. 集中力や記憶力が落ちたと感じることがある
7. なんとなく気分が落ち込んだり、イライラしやすかったりする
8. 睡眠について悩み始めたのは、1ヶ月以上前からだ

【結果の目安】 もし「はい」が3つ以上あり、特に8番にも「はい」と答えた方は、一時的な寝不足ではなく、不眠症の可能性があります。

日中の活動に支障が出ているようであれば、一度専門家への相談を検討してみることをお勧めします。

不眠の原因はひとつじゃない。主なきっかけを知っておこう

なぜ不眠は起こるのでしょうか。その原因は非常に多岐にわたり、多くの場合、複数の要因が複雑に絡み合っています。

ご自身の生活を振り返り、当てはまるものがないか確認してみましょう。

  • 心理的な原因 仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、将来への不安といったストレスは、不眠の最大の原因の一つです。
    脳が興奮状態(交感神経が優位)になり、リラックスできずに眠れなくなります。
    また、うつ病や不安障害といった心の病気の一症状として、不眠が現れることも少なくありません。
  • 身体的な原因 アトピー性皮膚炎によるかゆみ、関節リウマチなどの痛み、喘息の発作、頻尿など、身体的な苦痛や不快感が睡眠を妨げることがあります。
    また、睡眠中に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」や、脚がむずむずして眠れなくなる「むずむず脚症候群」など、睡眠そのものに関わる病気が隠れていることもあります。
  • 環境的な原因 寝室の騒音や光、暑すぎたり寒すぎたりする室温、体に合わない寝具など、睡眠環境の悪さも眠りを妨げる大きな要因です。
    時差のある海外への出張や、交代制勤務などで生活リズムが不規則になることも、体内時計を乱し、不眠のきっかけとなります。
  • 生活習慣の乱れ 就寝前のカフェイン摂取(コーヒー、緑茶、エナジードリンクなど)、アルコールの飲み過ぎ、喫煙は、脳を覚醒させ、睡眠の質を著しく低下させます。
    また、運動不足や、夜遅くまでのスマートフォン・PCの使用、不規則な食事なども、体内時計のリズムを崩し、不眠症の引き金となります。

精神科医 尾内隆志先生のコメント

お仕事のプレッシャーなどで一時的に眠れなくなる経験は、多くの方がお持ちです。しかし、それが1ヶ月以上続いて日中の活動に支障が出ているなら、専門家への相談を考えるサインかもしれません。一人で抱え込まず、まずは専門家に話してみることが大切です。

【今日からできる】不眠改善におすすめのセルフケア「睡眠衛生」

専門的な治療を始める前に、あるいは治療と並行して、ぜひ取り組んでいただきたいのが「睡眠衛生」の改善です。 

睡眠衛生の改善は、全ての人が取り組むべき健康的な睡眠の土台です。

しかし、不眠が3ヶ月以上続く慢性不眠症の場合、誤った考え方の癖や習慣が定着していることが多く、睡眠衛生だけでは改善が難しいことも知られています。

その場合は、睡眠衛生を実践しつつ、次のセクションで解説する認知行動療法(CBT-I)のような専門的な治療を検討することが重要です。

睡眠衛生とは、質の良い睡眠のために推奨される生活習慣のことです。

このセクションでは、今日からすぐに実践できる具体的な行動プランを、その理由とともに詳しく解説します。

睡眠の質を上げる「睡眠衛生」10の基本ルール

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」などを基に、特に重要とされる10のルールをご紹介します。

一つでも良いので、できそうなことから始めてみてください。

  1. 決まった時刻に起きる 休日でも平日と同じ時刻に起きるのが理想です。
    毎朝同じ時刻に太陽の光を浴びることで、体内時計がリセットされ、夜の自然な眠気につながります。
    寝だめは体内時計を乱す原因になるため、長くても1〜2時間程度の差に留めましょう。
  2. 光をうまく利用する 朝は太陽の光を浴びて体内時計のスイッチを入れ、夜は逆に強い光を避けることが重要です。
    特にスマートフォンやPCから発せられるブルーライトは、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌を抑制します。就寝1〜2時間前には使用を控えるのが理想です。
  3. 適度な運動をする 日中の適度な運動は、寝つきを良くし、深い睡眠を増やします。
    特に夕方から夜のはじめ(就寝3時間前くらい)に、ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動を30分程度行うのが効果的です。
    ただし、就寝直前の激しい運動は体を興奮させてしまうため避けましょう。
  4. 就寝前の食事に気をつける 就寝直前に食事を摂ると、消化活動のために内臓が働き続け、眠りが浅くなります。
    夕食は就寝の3時間前までに済ませるのが理想です。
    空腹で眠れない場合は、消化の良いホットミルクなどを少量摂るのは良いでしょう。
  5. リラックスできる時間を作る 睡眠前は、心と体をリラックスモードに切り替える時間を作りましょう。
    ぬるめのお湯(38〜40℃)での入浴、好きな音楽を聴く、アロマを焚く、軽いストレッチをするなど、自分に合ったリラックス法を見つけることが大切です。
  6. 寝る前のカフェイン・アルコール・喫煙を避ける カフェインには強い覚醒作用があり、その効果は4時間以上続くこともあります。
    アルコールは寝つきを良くするように感じますが、後半の睡眠を浅くし、中途覚醒の原因になります。
    ニコチンも覚醒作用を持つため、就寝前の喫煙は避けるべきです。
  7. 快適な寝室環境を整える 寝室は「静かで、暗く、涼しい」状態が理想です。
    遮光カーテンを利用して光を遮断し、耳栓やアイマスクを使うのも良い方法です。
    温度は夏なら25〜26℃、冬なら22〜23℃、湿度は50〜60%が快適とされています。
  8. 自分に合った寝具を選ぶ 枕の高さやマットレスの硬さは、睡眠の質に大きく影響します。
    スムーズな寝返りが打てる、体圧がうまく分散されるなど、ご自身がリラックスできるものを選びましょう。
  9. 眠くなってから床に就く 「早く寝ないと」と焦って、眠くないのに無理に床に入るのは逆効果です。
    眠気がない状態で布団に入ると、「眠れない」という不安が強まり、寝室が苦痛な場所になってしまいます。
    眠くなるまでは、リビングなどで静かに過ごしましょう。
  10. 昼寝は午後3時までに20〜30分 長い昼寝や夕方以降の昼寝は、夜の睡眠を妨げる原因になります。
    もし昼寝をするなら、午後3時までに、20〜30分程度に留めるのが効果的です。

適度な運動は天然の睡眠薬。おすすめの時間帯と内容

運動習慣が睡眠を改善することは、多くの研究で示されています。

運動によって脳の温度が一時的に上がり、その後、就寝時間に向けて体温が下がる過程で、自然な眠気が誘発されるのです。

おすすめは、ウォーキング、ジョギング、ヨガ、水泳といった、リズミカルに体を動かす有酸素運動です。

時間帯としては、就寝の約3時間前が最も効果的とされています。

例えば、夕食後に30分程度のウォーキングを取り入れるだけでも、寝つきが大きく改善される可能性があります。

この記事を執筆するにあたりAIが分析したデータによると、定期的な運動習慣を持つ人は、そうでない人に比べて不眠の訴えが有意に少ないという報告が多数存在します。

まずは週に3回程度から、無理のない範囲で始めてみましょう。

食事で睡眠をサポート。トリプトファン・GABAを多く含む食材

特定の栄養素が、睡眠の質を高める手助けをすることが知られています。

特に有名なのが「トリプトファン」です。

トリプトファンは、体内で睡眠ホルモン「メラトニン」の原料となる必須アミノ酸です。

また、「GABA(ギャバ)」も注目されています。GABAは、脳の興奮を鎮め、リラックスさせる働きを持つ神経伝達物質です。

これらの食材を夕食にバランス良く取り入れることで、穏やかな眠りをサポートする効果が期待できます。

ただし、これらはあくまで補助的なものです。

特定の食品だけを大量に摂取するのではなく、栄養バランスの取れた食事を心がけることが最も重要です。

注意!市販の睡眠改善薬やサプリメントとの付き合い方

ドラッグストアでは、「睡眠改善薬」と書かれた市販薬が販売されています。

これらの主成分は、多くがアレルギー薬(抗ヒスタミン薬)の副作用である「眠気」を利用したものです。

一時的な不眠に対しては有効なこともありますが、常用すると耐性ができて効きにくくなったり、口の渇きや翌日の倦怠感といった副作用が出たりすることがあります。

あくまで「一時的な不調に対する応急処置」と捉え、長期的な連用は避けるべきです。

また、様々なサプリメントも市販されていますが、その効果や安全性は製品によって大きく異なります。

もし試すのであれば、成分や含有量が明確で、信頼できるメーカーの製品を選びましょう。

いずれにせよ、市販薬やサプリメントに頼る前に、まずは睡眠衛生改善に取り組むことが根本的な解決への近道です。

精神科医 尾内隆志先生のコメント

『寝る前にお酒を飲むとよく眠れる』というのは大きな誤解です。アルコールは摂取後数時間で分解され、アセトアルデヒドという覚醒作用のある物質に変わります。これにより、眠りが浅くなったり、早朝に目が覚めたりする『中途覚醒』の原因になるのです。根本的な解決にはならないため注意が必要です。

薬に頼らない!不眠治療の第一選択「認知行動療法(CBT-I)」とは?

「薬はなるべく使いたくない」そう考える方は少なくないでしょう。

実は、現在の不眠症治療において、薬を使わない非薬物療法である「認知行動療法(CBT-I)」が、世界的な標準治療として最も推奨されています。

このセクションでは、CBT-Iがどのような治療法で、なぜ効果的なのかを詳しく解説します。

なぜCBT-Iが世界標準の治療法なのか?

CBT-Iは、不眠症を「誤った睡眠習慣」と「睡眠に対する思い込み」によって維持されている状態と捉え、それらを修正していく心理療法の一種です。

多くの不眠に悩む方は、「眠れないかもしれない」という不安から、早く寝床に入ったり、昼間に長く横になったりしがちです。

しかし、こうした行動が逆効果となり、「ベッド=眠れない場所」という条件づけを脳に作ってしまいます。

CBT-Iは、こうした悪循環を断ち切るための、科学的に確立されたアプローチです。

その効果は非常に高く、睡眠薬(薬物療法)と同等か、場合によってはそれ以上とされています。

最大のメリットは、治療によって身につけたスキルで、治療終了後も効果が持続し、再発率が低いことです。

薬のように副作用依存性の心配がない点も、大きな利点と言えるでしょう。

認知行動療法(CBT-I)の具体的な中身を5ステップで解説

CBT-Iは、専門家の指導のもと、通常4〜8回のセッション(1回30〜60分)を通じて行われます。

主に以下の5つの要素を組み合わせて、睡眠の改善を目指します。

  1. 睡眠日誌をつける(現状把握) まず、毎日の就寝時刻、起床時刻、寝つくまでにかかった時間、夜中に目が覚めた回数や時間、昼寝の時間、日中の気分などを記録します。
    これにより、ご自身の睡眠パターンを客観的に把握し、問題点を明らかにします。
  2. 睡眠衛生指導 前のセクションで解説した「睡眠衛生」を、専門家の視点からより徹底的に実践します。
    睡眠日誌を基に、個々の生活習慣の問題点を具体的に指摘し、改善策を一緒に考えていきます。
  3. 睡眠スケジュール法(睡眠制限療法) CBT-Iの中核となる技法の一つです。
    睡眠日誌から算出した「実際に眠れている時間」を基に、意図的にベッドで過ごす時間を制限します。
    例えば、8時間ベッドにいても6時間しか眠れていないなら、ベッドで過ごす時間を6時間に設定します。
    これにより、睡眠が凝縮され、深く連続した睡眠が得られやすくなります。
    眠れるようになってきたら、徐々に時間を延ばしていきます。
  4. 刺激制御法 「ベッド=睡眠」という正しい条件づけを脳に再学習させるための技法です。具体的には、以下のルールを実践します。
    • 眠くなってからベッドに入る。
    • ベッドでは睡眠(と性交渉)以外の活動(スマホ、読書、考え事など)をしない。
    • ベッドに入って15〜20分経っても眠れないときは、一度ベッドから出て、別の部屋でリラックスして過ごし、眠くなったら再びベッドに戻る。
    • 毎朝、決まった時刻に起きる。
    • 昼寝はしない。
  5. 認知再構成法 「8時間眠らなければダメだ」「今夜も眠れなかったら、明日の仕事はボロボロだ」といった、睡眠に対する非現実的な期待や破滅的な考え(認知の歪み)を見つけ出し、より現実的で柔軟な考え方に変えていくアプローチです。
    これにより、眠れないことへの不安やプレッシャーを軽減します。

CBT-Iはどこで受けられる?費用や期間の目安

認知行動療法(CBT-I)は、主に以下の場所で受けることができます。

治療期間は、個人の状態によりますが、一般的には週1回のペースで2ヶ月程度が目安とされています。

自分でできる?セルフCBT-Iの始め方と注意点

CBT-Iに関する書籍や、前述のアプリなどを活用して、ご自身で取り組むことも不可能ではありません。

特に「睡眠日誌」「睡眠衛生」「刺激制御法」は、セルフでも始めやすいでしょう。

ただし、CBT-Iは専門的な知識を要する技法も含まれており、特に「睡眠スケジュール法」は自己流で行うと過度な睡眠不足を招く危険性もあります。

また、不眠の背後にうつ病などの精神疾患が隠れているケースでは、まずその治療を優先する必要があります。

可能であれば、一度は専門家の診断と指導のもとで始めることが、最も安全かつ効果的です。

精神科医 尾内隆志先生のコメント

薬物療法も有効な選択肢ですが、まず検討すべきは認知行動療法(CBT-I)です。時間はかかりますが、ご自身の力で『眠れる自信』を取り戻せる、根本的な治療法として強くお勧めします。薬をやめたいと考えている方にも、CBT-Iの併用は非常に有効です。

睡眠薬(薬物療法)との正しい付き合い方|副作用や依存性の不安を解消

不眠症治療において、睡眠薬(薬物療法)は有効な選択肢の一つです。

しかし、「一度飲み始めたらやめられないのでは」「副作用が怖い」といった不安を感じる方も多いでしょう。

このセクションでは、睡眠薬に関する正しい知識を身につけ、不安を解消することを目指します。

専門医の指導のもとで適切に使用すれば、睡眠薬はあなたのつらい症状を和らげる心強い味方になります。

睡眠薬は「怖い薬」ではない。医師が処方する目的とは

医師が睡眠薬を処方する主な目的は、単に眠らせることだけではありません。

以下のような重要な役割があります。

  • つらい症状を一時的に和らげ、心身を休ませる 眠れない状態が続くと、心身ともに疲弊し、日常生活に大きな支障をきたします。
    睡眠薬は、まずそのつらい状態から抜け出し、心と体をしっかりと休ませるための「応急処置」として非常に有効です。
  • CBT-Iなど他の治療に取り組むエネルギーを回復させる 睡眠衛生改善認知行動療法(CBT-I)に取り組むには、ある程度の気力や体力が必要です。
    重度の不眠で疲れ果てている状態では、それらの非薬物療法を実践すること自体が困難です。
    睡眠薬で一時的に睡眠を確保し、エネルギーを回復させてから、根本的な治療に取り組むというアプローチは、非常に理にかなっています。

睡眠薬は、不眠症治療のゴールではなく、あくまでゴールに向かうための「サポーター」であると理解することが大切です。

主な睡眠薬の種類と特徴を比較

現在、日本で処方されている主な睡眠薬は、作用の仕方によっていくつかのタイプに分けられます。

それぞれに特徴があり、医師は患者さんの不眠のタイプ(入眠障害か中途覚醒かなど)や、年齢、持病などを考慮して最適な薬を選択します。

▼ 睡眠薬の種類別比較表

種類作用の仕組み(簡単な説明)主な特徴主な副作用
ベンゾジアゼピン(BZD)系脳の活動を全体的に抑制するGABAという物質の働きを強める。効果が強く、即効性がある。抗不安作用も併せ持つ。古くから使われている。翌日の眠気、ふらつき、筋弛緩作用、長期使用による依存性や耐性。
非ベンゾジアゼピン(非BZD)系BZD系と同様にGABAの働きを強めるが、睡眠作用に特化して働く。BZD系に比べ、筋弛緩作用や抗不安作用が少なく、ふらつきなどが起こりにくい。夢遊病のような症状(夢遊症状)、長期使用による依存性のリスクはBZD系より低いがゼロではない。
メラトニン受容体作動薬体内時計を調整する睡眠ホルモン「メラトニン」が作用する部位を刺激し、自然な眠りを誘う。依存性がほとんどなく、安全性が高い。体内時計の乱れによる不眠に特に有効。効果がマイルドで、強い不眠には効きにくいことがある。副作用は比較的少ない。
オレキシン受容体拮抗薬脳を覚醒させる物質「オレキシン」の働きをブロックし、脳を覚醒状態から睡眠状態へ切り替える。この薬は、従来の薬が脳を強制的に『眠らせる』のとは異なり、脳の『起きている』状態を維持するシステムを止めることで、より自然な眠りへと導くという、新しい発想に基づいています。依存性が極めて低い。悪夢を見ることがある。効果発現までに少し時間がかかることがある。

この記事の執筆にあたりAIが分析した最新の診療ガイドライン「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」では、依存性のリスクが低い非ベンゾジアゼピン系メラトニン受容体作動薬オレキシン受容体拮抗薬が第一選択薬として推奨される傾向にあります。

副作用(翌日の眠気・ふらつき)と依存性のリスク

睡眠薬で最も懸念されるのが副作用と依存性でしょう。

副作用として比較的多いのは、薬の効果が翌朝まで持ち越してしまうことによる眠気やだるさ(持ち越し効果)、ふらつき、頭痛などです。

特に高齢者では、ふらつきによる転倒・骨折のリスクに注意が必要です。

これらの副作用は、薬の種類や量、作用時間を調整することで軽減できることがほとんどです。

依存性については、特にベンゾジアゼピン系の薬を長期間、大量に服用し続けると、薬がないと眠れなくなったり(精神的依存)、薬をやめると強い離脱症状(身体的依存)が出たりするリスクがあります。

しかし、現在主流となっている新しいタイプの睡眠薬は、この依存性のリスクが大幅に低減されています。

専門医の指導のもと、必要最小限の量を、短期間の使用に留めるという原則を守れば、過度に恐れる必要はありません。

医師が教える「やめ方」。急な自己判断での中断は危険

睡眠薬は、医師の指示通りに服用している限り、安全性の高い薬です。

最も危険なのは、自己判断で急に服薬を中断することです。

特に長期間服用していた場合、「反跳性不眠(以前より強い不眠)」などの離脱症状が現れることがあります。

薬をやめる際は、必ず医師と相談の上、時間をかけて少しずつ量を減らしていく「漸減法(ぜんげんほう)」という方法を取ります。

その過程で認知行動療法(CBT-I)を併用し、「薬がなくても眠れる」という自信をつけていくことが、スムーズな断薬への鍵となります。

精神科医 尾内隆志先生のコメント

睡眠薬に抵抗を感じるお気持ちはよく分かります。しかし、専門医の指導のもとで短期間、適切に使用すれば、決して怖い薬ではありません。あなたの状態に合わせて最小限の量から慎重に処方しますので、ご安心ください。私たちは常に『最終的には薬をやめること』を目標に治療計画を立てています。

どの病院・クリニックに行けばいい?専門医への相談完全ガイド

セルフケアを試しても改善しない、あるいは症状が重くてつらい。

そう感じたら、専門家である医師に相談するタイミングです。

しかし、「何科に行けばいいの?」「どんなことをされるの?」といった疑問や不安から、受診をためらってしまう方もいるでしょう。

このセクションでは、クリニック選びから初診の流れ、費用まで、あなたが安心して一歩を踏み出すための情報を具体的にお伝えします。

不眠症の相談は何科へ?精神科・心療内科・睡眠外来の違い

不眠の相談ができる主な診療科は、「精神科」「心療内科」「睡眠外来」です。それぞれの特徴は以下の通りです。

  • 精神科 心の病気全般を専門とする診療科です。
    不眠の背景に、うつ病や不安障害など、他の精神疾患が疑われる場合に特に適しています。
    心の専門家として、薬物療法だけでなく、心理療法にも精通しています。
  • 心療内科 ストレスなどが原因で体に症状(身体症状)が現れる「心身症」を主に扱います。
    不眠の他に、頭痛、腹痛、動悸などの身体的な不調も伴う場合に適しています。
  • 睡眠外来(睡眠専門クリニック) 睡眠障害全般を専門的に診断・治療する外来です。
    精神科や内科、耳鼻咽喉科などの医師が担当していることが多いです。
    睡眠時無呼吸症候群など、特殊な検査が必要な病気が疑われる場合にも対応できます。

実際には、精神科心療内科の垣根は低くなっており、どちらでも不眠の相談は可能です。

まずは通いやすいクリニックを選び、そこで相談してみるのが良いでしょう。

後悔しないクリニック選びの5つのポイント

良い治療を受けるためには、信頼できる医師やクリニックと出会うことが非常に重要です。

以下の5つのポイントを参考に、ご自身に合ったクリニックを探してみてください。

  1. 医師が精神科専門医・睡眠専門医であるか 医師の専門性を示す一つの指標です。
    学会が認定する専門医資格を持っているかどうかは、ホームページの医師紹介などで確認できます。
    専門知識と豊富な経験に基づいた、質の高い治療が期待できます。
  2. 薬以外の治療法(特にCBT-I)にも対応しているか 安易に睡眠薬を処方するだけでなく、睡眠衛生指導や認知行動療法(CBT-I)といった非薬物療法の選択肢を積極的に提案してくれるクリニックは、患者さん一人ひとりに合った治療を考えてくれる良いクリニックと言えます。
  3. 話を丁寧に聞いてくれるか(口コミや初診の対応) 不眠の背景には、あなたの生活やストレスが深く関わっています。
    時間をかけて丁寧に話を聞き、あなたの悩みに共感し、一緒に治療方針を考えてくれる医師を選びましょう。
    電話予約時のスタッフの対応や、インターネット上の口コミも参考になります。
  4. 費用体系が明確か 不眠症治療は、基本的に公的医療保険適用となりますが、カウンセリング(CBT-Iなど)が自由診療となる場合もあります。
    初診の際に、費用の目安や保険適用の範囲について、きちんと説明してくれるクリニックは信頼できます。
  5. オンライン診療に対応しているか 仕事が忙しくて通院の時間が取れない、近くに良いクリニックがない、という方にはオンライン診療が便利です。
    ビデオ通話で診察を受け、薬は自宅に配送してもらえます。
    オンライン診療に対応しているかどうかも、クリニック選びの一つのポイントになるでしょう。

初診の流れと準備しておくこと

初めての受診は緊張するものです。事前に流れを知っておくと、少しリラックスして臨めるかもしれません。

【一般的な初診の流れ】

  1. 予約: まずは電話やウェブサイトから予約を取ります。
  2. 受付・問診票記入: 保険証を提示し、現在の症状や生活歴などを問診票に記入します。
  3. 診察: 医師が問診票を基に、あなたの話を詳しく聞きます。「いつから、どんな風に眠れないのか」「日中の症状はどうか」「何かきっかけはあるか」などを質問されます。
  4. 検査(必要に応じて): 血液検査や心理検査などを行うことがあります。
  5. 診断・治療方針決定: 診察結果を基に、医師が診断を伝え、あなたと相談しながら今後の治療方針(薬物療法やCBT-Iなど)を決定します。
  6. 処方・会計・次回予約: 必要であれば薬が処方され、会計を済ませて次回の予約を取ります。

【準備しておくと良いこと】 診察時間を有効に使うために、以下の情報をメモにまとめておくとスムーズです。

  • いつから、どんな風に眠れないか(例:1ヶ月前から、寝つきが悪く、夜中に2回目が覚める)
  • 日中の症状(例:午前中に強い眠気、集中できない)
  • 考えられる原因やきっかけ(例:仕事のプロジェクトが忙しくなった)
  • これまで試したセルフケアとその効果
  • 現在服用している薬やサプリメント
  • 医師に質問したいこと

気になる治療費用。保険適用の範囲と自己負担の目安

不眠症の診察や、処方される睡眠薬は、原則として公的医療保険適用となります。

自己負担割合が3割の方の場合、初診時の費用の目安は、診察料と処方箋料などを合わせて2,500円〜5,000円程度です。

再診時は1,500円〜3,000円程度が目安となります。

これに加えて、薬局で支払う薬代が必要です。

薬の種類や量にもよりますが、30日分で1,000円〜3,000円程度が一般的です。

ただし、前述の通り、医師ではなく臨床心理士などが行う長時間のカウンセリング(認知行動療法など)は、保険適用外の自由診療となることが多い点には留意が必要です。

精神科医 尾内隆志先生のコメント

初めて精神科心療内科のドアを叩くのは、とても勇気がいることだと思います。私たちはあなたのつらい症状を一緒に解決していくパートナーです。うまく話そうとせず、まずは『眠れなくて困っている』というお悩みだけでも聞かせてください。

不眠治療に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、不眠治療に関して多くの方が疑問に思う点について、Q&A形式で簡潔にお答えします。

Q. 治療にはどれくらいの期間がかかりますか?

A. 不眠の原因や重症度、選択する治療法によって大きく異なります。

急性のストレスなどが原因の一時的な不眠であれば、数週間から1ヶ月程度で改善することが多いです。

一方、数ヶ月以上にわたる慢性的な不眠症の場合、治療には3ヶ月から半年、あるいはそれ以上かかることもあります。

特に認知行動療法(CBT-I)は、生活習慣や考え方の癖を修正していくため、ある程度の時間が必要です。

焦らず、じっくりと取り組むことが大切です。

Q. うつ病と不眠症の関係は?

A. うつ病と不眠症には、非常に密接な関係があります。

不眠は、うつ病の代表的な症状の一つであり、うつ病患者さんの約9割が何らかの睡眠の問題を抱えていると言われています。

逆に、慢性的な不眠が続くと、うつ病を発症するリスクが約2倍に高まるという研究報告もあります。

このように、両者は互いに悪化させ合う悪循環の関係にあるのです。

そのため、不眠症を早期に治療することは、将来のうつ病を予防する上でも非常に重要です。

不眠の背景にうつ病が隠れているケースは少なくないため、気分の落ち込みや意欲の低下といった症状が伴う場合は、早めに精神科や心療内科に相談することが重要です。

Q. オンライン診療だけでも不眠症は治療できますか?

A. はい、多くの場合、オンライン診療だけでも効果的な治療が可能です。

オンライン診療では、ビデオ通話を通じて医師の診察を受け、必要な薬は自宅に配送してもらえます。

認知行動療法(CBT-I)のカウンセリングもオンラインで提供しているクリニックが増えています。

ただし、睡眠時無呼吸症候群など、特別な検査が必要な病気が疑われるケースや、症状が非常に重いケースでは、対面での診察が推奨されることもあります。

まずはオンライン診療で相談し、医師の判断を仰ぐのが良いでしょう。

Q. 子供や高齢者の不眠治療で気をつけることはありますか?

A. はい、年代によって注意すべき点が異なります。

子供の不眠では、まず生活リズムの乱れや心理的なストレス(学校や友人関係など)がないかを確認し、睡眠衛生指導などの行動アプローチが中心となります。薬物療法は非常に慎重に行われます。

高齢者の不眠では、加齢による自然な睡眠の変化(眠りが浅くなる、睡眠時間が短くなるなど)を理解することが大切です。

また、睡眠薬はふらつきによる転倒のリスクを高めるため、少量から慎重に開始する必要があります。

持病や他に服用している薬との飲み合わせにも、細心の注意が求められます。

まとめ:あなたに合った治療法で「眠れる自信」を取り戻そう

この記事では、精神科医 尾内隆志先生の監修のもと、不眠症のセルフチェックから、ご自身でできるセルフケア、そして専門的な治療法である認知行動療法(CBT-I)や薬物療法まで、網羅的に解説してきました。

眠れないつらさは、ご本人にしか分からない深刻な悩みです。

しかし、正しい知識を身につけ、適切なステップを踏めば、必ず改善への道は見つかります。

本記事の要点チェックリスト

最後に、あなたが次の一歩を踏み出すためのポイントをチェックリストにまとめました。

不眠治療を始める前の最終チェックリストチェック
1. 自分の不眠タイプ(入眠、中途覚醒など)を把握した
2. まずは「睡眠衛生」の改善から試してみる
3. 薬以外の選択肢として「認知行動療法(CBT-I)」があることを理解した
4. 専門医に相談するための準備(クリニック選び、情報整理)ができた

精神科医 尾内隆志先生からのメッセージ

眠れないことは、あなたのせいではありません。一人で抱え込まず、ぜひ専門家の力を頼ってください。あなたに合った方法で、穏やかな夜とすっきりとした朝を取り戻すお手伝いができれば幸いです。

参考文献

  1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症」  
  2. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」  
  3. 日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」  
  4. 国立精神・神経医療研究センター「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドラインの概要」  
  5. 厚生労働科学研究成果データベース「不眠症に対する薬物療法の推奨:エキスパートコンセンサス」  
  6. PubMed「Insomnia as a predictor of depression: a meta-analytic evaluation of longitudinal epidemiological studies」
  7. 日本認知療法・認知行動療法学会 他「不眠症の認知療法・認知行動療法の診療報酬化に関する共同声明」
  8. 東京大学大学院医学系研究科 精神医学分野「不眠症の認知行動療法の有効な手法を解明」
  9. 健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)「健康づくりのための睡眠指針2014の12箇条」  
  10. 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症(ふみんしょう)」

この記事を書いた人

葛飾橋病院

葛飾橋病院では精神科、神経科、内科、放射線科、歯科と様々な診療、治療を行っています。職員一同心をひとつに合わせて、患者様、ご家族の皆さまに心から安心していただけるホスピタルづくりを進めており、地域に密着した精神科医療の活性化に尽力していきます。当ブログでは精神科を中心とした記事を作成し患者様の心を少しでも和らげられるような発信をしていきます。