コラム

【医師監修】夜勤のつらい不眠症を改善する11の対策。原因と今日からできる睡眠の質向上テクニック

【医師監修】夜勤のつらい不眠症を改善する11の対策。原因と今日からできる睡眠の質向上テクニック
尾内隆志 医師の顔写真

この記事の監修者

尾内 隆志(おない たかし) Takashi Onai, M.D.
  • 資格:公益社団法人 日本精神神経学会 精神科専門医
  • 所属・役職:医療法人社団 一秀会 葛飾橋病院 理事長(院長
  • 専門分野:臨床精神科医学一般、EDに伴う心理的側面
  • 医籍登録:医師免許取得:平成12年5月(医籍登録番号:409881)
学歴・職歴(要点を表示)

学歴

  • 郁文館高等学校(平成3年4月〜平成6年3月)
  • 聖マリアンナ医科大学 医学部医学科(平成6年4月〜平成12年3月)

職歴

  • 東京大学医学部附属病院 精神神経科(平成12年4月〜平成13年5月)
  • 針生ヶ丘病院 精神科(平成13年6月〜平成15年5月)
  • 初石病院 精神科(平成15年6月〜平成17年5月)
  • 手賀沼病院 精神科(平成17年6月〜平成18年12月)
  • 葛飾橋病院 理事長(平成19年1月〜現在)

理事長/院長よりご挨拶:
昭和32年の開院以来、地域の皆様に支えられ半世紀をこえる歴史を重ねてまいりました。社会や生活スタイルの変化に伴い精神医療も大きく変化しています。私たちは優しく開かれた医療をめざし、地域に根ざした活動を推進し、患者様・ご家族に安心いただけるホスピタルづくりに尽力してまいります。

監修範囲

本記事のうち、精神科医の観点が関与する記述(EDに関連する心理的側面・受診の不安軽減・受診行動に関する助言等)について、事実関係と表現の妥当性を確認しました。医学的一般情報であり、特定の診断・治療の保証を行うものではありません。

  • 利益相反:申告すべき利益相反はありません。
  • 最終更新:

夜勤明け、疲れているはずなのに目が冴えて眠れない。

次の勤務に疲れが残ってしまい、仕事中の集中力も続かない…。

多くの夜勤従事者、特に献身的にケアを提供されている介護士の皆さんが、こうした深刻な悩みを抱えています。

大切なのは、その悩みを「仕方ないこと」と諦めないことです。

結論として、夜勤による不眠の主な原因は、私たちの体に備わっている「体内時計」の乱れです。 

しかし、光のコントロールや睡眠環境、勤務前後の過ごし方を少し工夫するだけで、睡眠の質は大きく改善できます。

この記事では、精神科医の尾内隆志先生監修のもと、科学的根拠に基づいた実践的な対策だけを厳選してご紹介します。

この記事を読めば、以下の3点が明確になります。

あなたの貴重な休息時間を、質の高い睡眠に変えていきましょう。

目次
  1. なぜ夜勤だと眠れない?体内時計の乱れが不眠の根本原因
  2. 【結論】今日から試せる!夜勤明けの質を高める睡眠5つのコツ
  3. 【シーン別】睡眠リズムを整える生活習慣6つの改善策
  4. 市販の睡眠改善薬は使ってもいい?精神科医が教える薬との付き合い方
  5. それでも改善しないなら…病院受診を考えるべきサインと相談先
  6. 夜勤従事者の睡眠に関するよくある質問(FAQ)
  7. まとめ:自分に合ったケアで、夜勤と上手に付き合っていきましょう

なぜ夜勤だと眠れない?体内時計の乱れが不眠の根本原因

「疲れているのに眠れない」という辛い状況は、一体なぜ起こるのでしょうか。

それは意志の力や気合の問題ではなく、私たちの体に組み込まれた、非常に精密なメカニズムが関係しています。

このセクションでは、不眠の根本原因である「体内時計」と睡眠ホルモンの関係を、分かりやすく解説します。

私たちの体にある「体内時計」とは?

私たちの体には、意識しなくても約24時間のリズムを刻み続ける体内時計(サーカディアンリズム)という機能が備わっています。

これは、脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)という部分にある「親時計」と、心臓や肝臓など全身の臓器に存在する「子時計」で構成されており、互いに連携して働いています。

この体内時計が、体温や血圧、ホルモンの分泌などを自動的にコントロールし、「日中は活動モード」「夜間は休息モード」という自然な切り替えを行っているのです。

例えば、朝になると体温や血圧が上がり、活動準備が整います。そして夜になると、体温が少し下がり、自然な眠気を感じるようにプログラムされています。

しかし、夜勤はこの本来のリズムに逆らう働き方です。

体が「休むべき時間」に活動し、「活動すべき時間」に眠ろうとするため、体内時計にズレが生じます。

このズレが、疲労感、だるさ、そして「眠りたいのに眠れない」という不眠の直接的な原因となるのです。

睡眠ホルモン「メラトニン」が光によって抑制される仕組み

体内時計をコントロールする上で、非常に重要な役割を果たすのがメラトニンというホルモンです。

「睡眠ホルモン」とも呼ばれるメラトニンは、脳の松果体(しょうかたい)から分泌され、脈拍・体温・血圧を低下させることで、心身をリラックスさせ、自然な眠りを誘う働きがあります。

このメラトニンの分泌量は、、特に太陽光やスマートフォン、LED照明に多く含まれるブルーライトによって劇的に変化します。

朝、太陽の光を目から浴びると、脳はそれを「朝だ」と認識し、メラトニンの分泌をストップさせます。

そして、その約14〜16時間後に、再びメラトニンの分泌が始まり、夜の眠りに備えるのです。

夜勤明けの問題はここにあります。

本来ならメラトニンが分泌されて眠くなるべき早朝の時間帯に、帰宅途中で強い太陽光を浴びてしまうと、脳は「朝だ、起きる時間だ」と勘違いし、メラトニンの分泌を強制的に止めてしまいます。

その結果、家に帰ってベッドに入っても、体は休息モードに入れず、目が冴えて眠れなくなってしまうのです。

「交代勤務睡眠障害」のセルフチェック

夜勤による睡眠の問題が一時的なものではなく、長期間にわたって続いている場合、それは「交代勤務睡眠障害」という治療を考慮すべき状態かもしれません。

これは、不規則な勤務スケジュールによって体内時計が社会的な生活リズムに同調できなくなり、不眠や過度な眠気などの症状が続く状態を指します。

症状が1ヶ月以上続いて日常生活に支障がある場合は注意が必要ですが、臨床的な慢性不眠症の診断では3ヶ月という期間がひとつの目安になります。

期間にかかわらず、辛い症状が続く場合は早めに専門家へ相談しましょう。

以下の項目に心当たりがないか、セルフチェックをしてみましょう。

もしこれらの項目に複数当てはまり、1ヶ月以上も改善が見られないようであれば、それは単なる寝不足以上の問題かもしれません。

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

臨床の現場でも、夜勤のある看護師さんや介護士さんで、『休みの日も体のリズムが戻らない』と相談に来られる方は非常に多いです。これは単なる寝不足ではなく、交代勤務睡眠障害という治療が必要なケースもありますので、ご自身の状態を軽視しないことが大切ですよ。早めに専門家に相談することで、より効果的な対策を見つけることができます。

【結論】今日から試せる!夜勤明けの質を高める睡眠5つのコツ

夜勤による不眠のメカニズムがわかったところで、ここからは最も重要な「では、どうすれば良いのか?」という具体的な対策について解説します。

すぐに実践できる方法を知りたい方のために、今日から試せる5つの重要なコツを厳選しました。

【最重要】帰宅時の「光」を徹底的にブロックする

前述の通り、夜勤明けの睡眠で最大の敵は「」です。

朝日を浴びることは、脳に「覚醒せよ」という強力なメッセージを送ることに他なりません。

したがって、帰宅途中から就寝まで、いかに光を遮断するかが睡眠の質を決定づけると言っても過言ではありません。

通勤中の工夫

  • サングラスをかける: レンズの色が濃く、顔にフィットして横からの光も防げるような、大きめのサングラスが理想的です。
    UVカット機能だけでなく、可視光線透過率が低いものを選びましょう。
  • 帽子やパーカーを活用する: つばの広い帽子や、フード付きのパーカーを深くかぶることで、上方からの光を物理的に遮断できます。
  • できるだけ日陰を歩く: 少し遠回りになったとしても、アーケードやビルの影など、日陰の多いルートを選んで帰宅する意識が大切です。

帰宅後の工夫

  • スマホ・PCのブルーライト対策: 帰宅後、すぐに寝る前にスマホをチェックしたくなる気持ちは分かりますが、これは睡眠にとって致命的です。
    画面から発せられるブルーライトは、太陽光と同様にメラトニンの分泌を抑制します。スマートフォンの「夜間モード」や「ブルーライトカット」設定を常時オンにしておく、あるいは就寝前の30分は触らない、とルールを決めることが重要です。

帰宅後は刺激を避ける「入眠儀式」を

夜勤明けの体は、心身ともに興奮状態(交感神経が優位な状態)にあります。

これをスムーズに休息モード(副交感神経が優位な状態)へ切り替えるために、自分なりの「入眠儀式」を持つことが効果的です。

これは、脳と体に「これから眠りに入るよ」という合図を送るための習慣です。

  • 熱いお風呂はNG、ぬるめのお湯でリラックス: 疲れた体で熱いお風呂に入るとスッキリするように感じますが、これは体温を上げてしまい、覚醒を促すため逆効果です。
    38〜40℃程度のぬるめのお湯に10〜15分ほど浸かることで、心身がリラックスし、その後の体温低下がスムーズな入眠を助けます。
  • 食事は消化の良いものを少量だけ: 空腹すぎても眠れませんが、満腹状態では消化活動が睡眠を妨げます。
    温かいスープや味噌汁、おかゆ、バナナなど、消化が良く、体を温めるものを少量摂るのがおすすめです。
    カツ丼やラーメンといった脂っこい食事は避けましょう。
  • リラックスできる音楽や香りを取り入れる: 心地よいと感じる静かな音楽を聴いたり、ラベンダーやカモミールといった鎮静作用のあるアロマを焚いたりするのも良い方法です。

寝室を「最高の睡眠環境」にする

日中に質の高い睡眠をとるためには、寝室を「夜」の状態に近づける、徹底した睡眠環境の整備が不可欠です。

中途半端な対策では、わずかな光や音で眠りが浅くなり、疲労回復が妨げられてしまいます。

  • 遮光1級カーテンで光を完全にシャットアウト: カーテンは、光をほぼ100%遮断する「遮光1級」のものを選びましょう。
    カーテンの上下や横からの光漏れも防ぐため、カーテンレールを覆うカバーを付けたり、丈や幅に余裕のあるサイズを選んだりする工夫も有効です。
    アイマスクを併用するのも良いでしょう。
  • 耳栓やホワイトノイズマシンで生活音を遮断: 日中は、家族の生活音や屋外の工事音、車の音など、睡眠を妨げる騒音が数多く存在します。
    自分の耳にフィットする遮音性の高い耳栓は必須アイテムです。
    また、「サー」という砂嵐のような音を出すホワイトノイズマシンやアプリは、突発的な物音をかき消してくれる効果があり、安眠をサポートします。扇風機や空気清浄機の作動音でも代用できます。

「戦略的仮眠」で睡眠負債を返済する

夜勤はどうしても睡眠時間が不規則になり、「睡眠負債(睡眠不足の蓄積)」が溜まりがちです。

この負債を効果的に返済し、勤務中のパフォーマンスを維持するために、「戦略的仮眠」を取り入れましょう。

夜勤前の仮眠

出勤する前に、90分程度の仮眠をとるのがおすすめです。

これは睡眠サイクル1周分にあたり、すっきりと目覚めやすいとされています。

ただし、この睡眠サイクルには個人差があり、実際には70分から110分程度の幅があるため、ご自身にとって最もすっきりと起きられる時間を見つけることが大切です。

これにより、夜勤中の眠気を効果的に軽減できます。

夜勤中の仮眠

職場環境が許すのであれば、休憩時間に20〜30分の短い仮眠をとりましょう。

これは「パワーナップ」とも呼ばれ、長すぎると深い眠りに入ってしまい、起きた時に強い眠気(睡眠慣性)が残ります。

30分以内の仮眠が、疲労回復と覚醒レベルの向上に最も効果的です。

起きたらすぐに太陽の光を浴びて体内時計をリセット

夜勤明けの睡眠から目覚めた後は、体内時計を次のリズムに合わせるためのリセット作業が必要です。

その最も効果的なスイッチが「太陽の光」です。

起きたら、まず遮光カーテンを開けて、太陽の光を部屋いっぱいに取り込みましょう。

ベランダに出たり、少し散歩したりして、15分以上光を浴びるのが理想です。これにより、脳はメラトニンの分泌を停止し、体を活動モードに切り替えます。

この習慣が、夜勤による体内時計のズレを最小限に食い止め、次の睡眠の質を高めることにつながるのです。

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

色々な対策がありますが、まず一つだけ試すなら光のコントロールです。特に夜勤明けの朝日を浴びない工夫は、体内時計を乱さないために最も効果的です。そして、起きた後にはしっかりと光を浴びて、体を目覚めさせてあげる。この『光のオン・オフ』を意識するだけでも、睡眠のリズムはかなり改善されるはずです。ぜひ今日から実践してみてください。

【シーン別】睡眠リズムを整える生活習慣6つの改善策

即効性のある対策と並行して、日々の生活習慣を見直すことも、不規則な勤務に対応できる体を作る上で非常に重要です。

このセクションでは、「夜勤前」「夜勤中」「休日」といったシーン別に、睡眠リズムを整えるための具体的な改善策を6つご紹介します。

【夜勤前】夕食は消化の良いものを軽めに

夜勤が始まる直前の食事は、勤務中のエネルギー源となると同時に、その後の体調や眠気にも大きく影響します。

揚げ物や脂肪分の多い肉料理など、消化に時間のかかる重い食事は、胃腸に負担をかけ、勤務中の眠気やだるさの原因となります。

夜勤前の食事は、勤務開始の2〜3時間前までに済ませるのが理想です。

メニューは、消化が良く、エネルギーに変わりやすい炭水化物と、良質なたんぱく質を中心に組み立てましょう。

例えば、力うどん、鶏ささみと野菜のスープ、おにぎりと具沢山の味噌汁などがおすすめです。

腹八分目を心がけ、満腹になるまで食べないことも重要なポイントです。

【夜勤中】集中力を切らさないための間食と水分補給

深夜の時間帯は、血糖値が下がり、集中力が途切れやすくなります。

これを防ぐために、夜勤中には適切な間食と水分補給を心がけましょう。一度にたくさん食べるのではなく、数回に分けて少量ずつ摂るのがコツです。

おすすめの間食は、血糖値の急上昇を招きにくいナッツ類、ヨーグルト、バナナ、ゆで卵などです。

逆に、チョコレートや菓子パン、スナック菓子は、一時的に血糖値を上げますが、その後の急降下で強い眠気を引き起こす可能性があるため、避けた方が賢明です。

また、脱水は疲労感や集中力低下に直結します。

こまめに水やお茶を飲んで、常に体を潤しておくことを忘れないでください。

【休日】起きる時間は普段と2時間以上ずらさない

夜勤明けの休日は、つい昼過ぎまで寝てしまう「寝だめ」をしたくなりますが、これは体内時計の乱れをさらに悪化させる原因となります。

休日に平日よりも大幅に遅く起きることは「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」と呼ばれ、心身の不調を招くことが知られています。

休日の朝、起きる時間は普段の起床時刻(夜勤明けに起きる時間)と比べて、2時間以内のズレに留めましょう。

例えば、いつも15時に起きるのであれば、休日も遅くとも17時までには起きるようにします。

もし眠気が強い場合は、昼間に90分以内の昼寝で補うようにすると、体内時計への影響を最小限に抑えられます。

ストレスを溜めない自分なりのリラックス法を見つける

介護の仕事は、身体的な負担だけでなく、精神的なストレスも大きいものです。

ストレスは、体を緊張させるホルモン「コルチゾール」の分泌を促し、睡眠の質を低下させる大きな要因となります。

日頃から意識的にストレスを発散させ、心身をリラックスさせることが、質の高い睡眠につながります。

大切なのは、自分が「心地よい」と感じるリラックス法を見つけることです。

以下に、他の介護士さんが実践している工夫の例を挙げますので、参考にしてみてください。

同僚の介護士さんたちの声

適度な運動習慣で深い眠りを得る

定期的な運動は、睡眠の質を高める上で非常に効果的です。

ウォーキングやジョギング、ヨガなどの有酸素運動は、心地よい疲労感をもたらし、深いノンレム睡眠の時間を増やすことが科学的に証明されています。

ただし、運動を行うタイミングには注意が必要です。

就寝直前の激しい運動は、交感神経を刺激して体温を上げてしまい、かえって寝つきを悪くします。

運動は、眠りにつきたい時間の3時間前までに終えるのが理想的です。

例えば、夜勤明けの15時に寝たいのであれば、午前中に軽い運動を済ませておくと良いでしょう。

休日に習慣として取り入れるのもおすすめです。

カフェインとアルコールの正しい摂り方

カフェインアルコールは、多くの人が睡眠のために誤った使い方をしがちな物質です。

コーヒーやお茶に含まれるカフェインには強い覚醒作用があり、その効果は個人差がありますが、一般的に摂取してから5〜8時間程度続くとされています。

夜勤中に眠気覚ましとして飲むのは有効ですが、勤務終了の4〜5時間前からは摂取を控えるべきです。

ただし、カフェインの代謝速度には個人差が大きいため、特にカフェインに敏感な方は、6〜8時間前から摂取を控えるなど、ご自身の体感に合わせて調整することが望ましいです。

一方、アルコールは寝つきを良くするように感じられるため、「寝酒」として飲む人もいますが、これは大きな間違いです。

アルコールは、眠りを浅くし、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」の原因となります。

また、利尿作用があるため、トイレに行きたくなって起きてしまうこともあります。

質の高い睡眠を求めるのであれば、就寝前の飲酒は避けるのが賢明です。

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

『休日にゆっくり寝たい』というお気持ちは、毎日頑張っていらっしゃる皆さんにとって、とても自然なことです。よく分かります。でも、そこで寝すぎてしまうと、かえってリズムが崩れて次の勤務が辛くなるという悪循環に陥りやすいのです。まずは『いつもより少しだけ長く寝る』くらいを意識して、体内時計を大きく狂わせないようにすることが、長い目で見て体を楽にするコツですよ。

市販の睡眠改善薬は使ってもいい?精神科医が教える薬との付き合い方

セルフケアを試しても、どうしても眠れない夜が続くと、「市販の睡眠薬に頼ってみようか」と考えることもあるかもしれません。

ドラッグストアで手軽に購入できる薬は心強い味方にも思えますが、使用する前に正しい知識を持つことが非常に重要です。

このセクションでは、専門家の視点から、薬との正しい付き合い方について解説します。

「睡眠改善薬」と「睡眠薬(睡眠導入剤)」の根本的な違い

まず理解しておくべきなのは、ドラッグストアで購入できる「睡眠改善薬」と、医師が処方する「睡眠薬(睡眠導入剤)」は、全くの別物であるという点です。

睡眠改善薬の主成分は、「ジフェンヒドラミン塩酸塩」という抗ヒスタミン薬です。

これは本来、アレルギー症状(くしゃみ、鼻水など)を抑えるための成分ですが、副作用として眠気を引き起こす作用があります。

この副作用を主作用として利用したのが睡眠改善薬です。

あくまで「一時的な不眠症状の緩和」を目的としており、不眠症そのものを治療する薬ではありません。

一方、医師が処方する睡眠薬は、脳の興奮を鎮めたり、眠りを促す物質の働きを強めたりすることで、より直接的に睡眠に作用します。

作用時間も、超短時間型から長時間型まで様々で、医師が患者さんの不眠のタイプ(寝つきが悪い、途中で起きる、など)に合わせて処方します。

こちらは「不眠症の治療」を目的とした医療用医薬品です。

▼ 睡眠改善薬と睡眠薬の比較表

項目睡眠改善薬睡眠薬(睡眠導入剤)
分類一般用医薬品医療用医薬品
購入場所薬局・ドラッグストア医師の処方箋が必要
主な成分抗ヒスタミン薬ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系など
主な作用副作用の眠気を利用脳の神経活動を抑制し、眠りを誘発
対象者一時的な不眠症状がある人不眠症と診断された人

市販薬を試す前に知っておくべき注意点と副作用

睡眠改善薬は手軽に利用できますが、いくつかの注意点があります。

まず、連用は避けるべきです。体が薬に慣れて効果が薄れたり(耐性)、日中に眠気やだるさが残ったりすることがあります。

製品の添付文書にも「2〜3回服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、医師、薬剤師又は登録販売者に相談してください」と記載されていることがほとんどです。

また、緑内障や前立腺肥大の持病がある人は、症状を悪化させる可能性があるため使用できません。

他の薬との飲み合わせにも注意が必要です。

副作用としては、眠気の他に、口の渇き、めまい、頭痛、胃腸の不調などが報告されています。

服用後は、自動車の運転など危険を伴う機械の操作は絶対に行わないでください。

薬に頼らないためにできること

薬はあくまで対症療法であり、不眠の根本的な原因を解決するものではありません。

薬を考える前に、まずはこの記事で紹介しているような、薬に頼らないセルフケアを徹底して試すことが最も重要です。

これらの生活習慣の改善は、薬のように即効性はないかもしれませんが、副作用の心配がなく、長期的に見て健康的な睡眠リズムを取り戻すための最も確実な方法です。

薬は、どうしても辛い時の「お守り」程度に考え、安易に頼らない姿勢が大切です。

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

『市販の睡眠改善薬はクセにならない』と誤解されている方が多いですが、漫然と使い続けるのは推奨できません。効果が感じにくくなり、量を増やしてしまうという悪循環に陥る可能性もあります。あくまで一時的な不調をサポートするものであり、根本的な解決策ではないことを理解してください。まずは生活習慣の改善を試し、それでも辛い時の一時的な助けとして考えるのが、正しい付き合い方です。

それでも改善しないなら…病院受診を考えるべきサインと相談先

様々なセルフケアを試しても、一向に睡眠の状態が改善しない。

日中の眠気やだるさが辛くて、仕事や生活に支障が出ている…。

そんな時は、一人で抱え込まずに専門家の助けを借りることを考えましょう。

このセクションでは、病院受診を考えるべき具体的なサインと、どこに相談すればよいのかについて解説します。

こんな症状が2週間以上続いたら専門家へ(セルフチェックリスト)

「病院に行くほどではないかも」とためらってしまうかもしれませんが、睡眠の問題は心身の健康に直結する重要なシグナルです。

以下のチェックリストに当てはまる状態が2週間以上続いている場合は、専門医への相談を強く推奨します。

▼ 受診を推奨するセルフチェックリスト

チェック項目はい / いいえ
日中の眠気がひどく、仕事に支障が出ている
気分が落ち込んだり、イライラすることが増えた
休日も疲れが全く取れないと感じる
2週間以上、週に3日以上眠れない日(寝つきが悪い、途中で起きるなど)が続いている
頭痛、めまい、胃腸の不調など、体の不調を感じることが増えた

これらの症状は、体が発しているSOSサインです。

専門家の助けを借りることで、自分では気づかなかった原因が見つかったり、より効果的な治療法に出会えたりする可能性があります。

睡眠の悩みは何科に相談すればいい?(精神科・心療内科)

睡眠に関する悩みを相談する場合、主な選択肢は「精神科」または「心療内科」です。

  • 精神科: 不眠だけでなく、気分の落ち込みや不安、イライラといった「こころ」の症状全般を専門としています。ストレスが不眠の大きな原因となっている場合に適しています。
  • 心療内科: ストレスなどが原因で体に症状(頭痛、腹痛、動悸など)が現れる「心身症」を主に扱います。不眠に加えて、身体的な不調も強く感じている場合に適しています。

最近では「睡眠外来」や「スリープクリニック」といった、睡眠障害を専門に扱う医療機関もあります。

お近くにそうした専門クリニックがあれば、そちらに相談するのも良いでしょう。

病院ではどんな治療をするの?

病院では、まず詳しい問診を通して、あなたの生活習慣、勤務スケジュール、睡眠の状態、ストレスの状況などを丁寧に聞き取ります。

その上で、一人ひとりに合った治療方針を立てていきます。

主な治療法には、以下のようなものがあります。

  1. 睡眠衛生指導: まず行われるのが、これまでこの記事で解説してきたような、睡眠に関する正しい生活習慣(光の浴び方、食事、運動など)の指導です。
    専門家の視点から、あなたの生活に合わせてより具体的にアドバイスしてくれます。
  2. 認知行動療法(CBT-I): 睡眠に対する誤った思い込みや習慣を修正していく心理療法です。
    欧米では不眠症治療の第一選択とされており、薬を使わずに根本的な改善を目指します。
  3. 薬物療法: 必要だと判断された場合に、医師の管理のもとで睡眠薬が処方されます。
    あくまで睡眠リズムが整うまでの補助として使われることが多く、漫然と長期間使い続けることはありません。

尾内医師 (精神科専門医) のアドバイス

病院に行くのは勇気がいるかもしれませんが、専門家と話すだけで『自分だけじゃなかったんだ』と気持ちが楽になることもあります。私たちは、あなたの辛い状況を理解し、一緒に解決策を探していく味方です。一人で抱え込まず、どうか気軽に相談の扉を叩いてみてください。

夜勤従事者の睡眠に関するよくある質問(FAQ)

最後に、夜勤と睡眠に関して多くの方が抱く、細かい疑問についてQ&A形式でお答えします。

Q. 夜勤明けにおすすめのアロマやハーブティーはありますか?

はい、リラックス効果のある香りを活用するのはとても良い方法です。

アロマであれば、鎮静作用で知られるラベンダーや、不安を和らげるカモミール・ローマンベルガモットなどがおすすめです。

ディフューザーで香りを拡散させたり、ティッシュに1〜2滴垂らして枕元に置いたりして使います。

ハーブティーでは、同じくカモミールや、神経の高ぶりを鎮めるパッションフラワーリンデンなどが適しています。

カフェインが含まれていないものを選び、温かいものをゆっくりと飲むことで、心身ともにリラックスできます。

Q. スマホアプリやウェアラブルデバイスでの睡眠計測は効果がありますか?

睡眠計測アプリやデバイスは、自身の睡眠パターン(睡眠時間や眠りの深さ・浅さなど)を可視化し、睡眠習慣への意識を高めるという点では非常に有効です。

記録を続けることで、「昨日は運動したから深く眠れたな」といった気づきが得られることもあります。

ただし、そのデータはあくまで簡易的なものであり、医学的に正確なものではありません。

数値に一喜一憂しすぎると、かえって「よく眠らなければ」というプレッシャーになることもあります。

また、計測データにとらわれ、完璧な睡眠を目指そうとすることがかえって不安やストレスとなり、睡眠を妨げる「オーソソムニア(orthosomnia)」と呼ばれる状態に陥る可能性も指摘されています。

あくまで生活改善の参考程度に活用するのが良いでしょう。

Q. どうしても食欲が抑えられない時の対処法は?

睡眠不足になると、食欲を増進させるホルモン「グレリン」が増加し、食欲を抑制するホルモン「レプチン」が減少することが分かっています。

つまり、睡眠不足で食欲が増すのは、ホルモンの影響による自然な反応なのです。
食欲が抑えられない時は、無理に我慢するのではなく、食べるものの質を意識しましょう。

スナック菓子や甘いものではなく、温かいスープや味噌汁でまずお腹を落ち着かせ、ゆで卵やヨーグルト、ナッツといった、たんぱく質や良質な脂質を含む、腹持ちの良いものを選ぶのがおすすめです。

まとめ:自分に合ったケアで、夜勤と上手に付き合っていきましょう

この記事では、精神科医の尾内先生監修のもと、夜勤による不眠の原因から、今日から実践できる具体的な11の対策までを詳しく解説してきました。

夜勤による不眠は、あなたの努力不足や体質のせいではありません。

体内時計の仕組みを正しく理解し、適切な対策を講じることで、必ず改善できます。

最後に、最も重要なポイントをもう一度確認しましょう。

あなたの毎日の頑張りが、質の高い睡眠によって支えられ、心身ともに健やかな日々を送れることを心から願っています。

夜勤明けの快眠のための最終チェックリスト

チェック項目チェック
帰宅時にサングラスや帽子で光を遮断したか?
寝室は遮光カーテンで完全に真っ暗になっているか?
就寝前のスマホ操作を控え、ブルーライトを避けたか?
ぬるめのお風呂やリラックスタイムで心身を落ち着けたか?
辛い時は専門家を頼るという選択肢を覚えているか?

参考文献

概日リズム睡眠・覚醒障害 – e-ヘルスネット(厚生労働省)  

アルコールと睡眠 – e-ヘルスネット(厚生労働省)  

睡眠と生活習慣病との深い関係 – e-ヘルスネット(生労働省)  

時差症候群(時差ぼけ) – e-ヘルスネット(厚生労働省)  

睡眠のタイミングを決める生物時計機構 – 健康・体力づくり事業財団  

睡眠と健康長寿 – 公益財団法人 長寿科学振興財団  

不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)マニュアル – 日本睡眠学会  

睡眠障害対処マニュアル – 国立精神・神経医療研究センター  

交代勤務者の健康問題とその対策 – 労働者健康安全機構  

ICD-11による疾患分類(睡眠・覚醒障害) – 医薬品医療機器総合機構(PMDA)  

この記事を書いた人

葛飾橋病院

葛飾橋病院では精神科、神経科、内科、放射線科、歯科と様々な診療、治療を行っています。職員一同心をひとつに合わせて、患者様、ご家族の皆さまに心から安心していただけるホスピタルづくりを進めており、地域に密着した精神科医療の活性化に尽力していきます。当ブログでは精神科を中心とした記事を作成し患者様の心を少しでも和らげられるような発信をしていきます。